第27話 将太 梅学高校にて(1)
本当に教室に入って良いのだろうか?
将太は教室の前で腕組みをして考えた。
将太は中年のおじさんである。
女子校に入るなんて犯罪じゃないのか?
否、別にイヤらしい思いは全くないのだから堂々と入ればいいではないか。
よし、入るぞ!俺は変態じゃないぞ!
入ろうとしたその瞬間、中から扉が開いたので驚いて飛び上がってしまった。
「え?一音どうしたの~?」教室から出てきたのは一音と同じグループの栞である。
「い、いや何でもない」ドキドキしながら席へ向かう。
数名の生徒は教科書を開き勉強をしている。
進学校の受験生、自主的に勉強をするとは流石だな。
将太は、感心しながら真似して教科書を開いてみたが
「何じゃこりゃ。意味がわからん」と呟くと早々に教科書をしまった。
隣の席を見てみると本を読んでいる。
クラスから仲間外れにされている羽山さんか、良い子そうなのに可哀想に。
しげしげと眺めていると視線に気付いた羽山が怯えた表情で将太の顔を見た。
いかん、いかん。最近は見つめるだけでセクハラ!などと騒ぎ立てられてしまうからな。
将太は慌てて顔を反対方向へ向け窓の外を眺める。
「いい景色だなぁ」わざとらしく口にしたが羽山は読書に集中し直していた為、聞いちゃいなかった。
1時間目は生物だ。
ノートはとるが、本当に書き写しているだけ。理解は全くしていない。
一音は小さい頃からよく勉強をしていた。
勉強好きだなんて誰に似たんだか、と考え、晃太郎の隔世遺伝じゃ無かろうか?と思い至り頭を抱えた。
「あんな風に育っちゃ困るぞ!」
「上島さん、何が困るんです?」
無意識に声が出ていた。教師が冷たい目で睨んでいる。
「間違いました。何でもないです。どうぞ続けてください」教師は怪訝な顔をしている。
上手くやらないと一音に何を言われるかー。
3時間目は将太の嫌いな数学だ。
将太は晃太郎と違い文系である。
だからといって英語が喋れたりする訳ではないが
「昨日の小テストを返します」
名前を呼ばれて前に行くと教師は呆れた表情である。
「上島さん、ふざけてるの?」
「ハ?」
見ると見事な白紙に大きく0点!と書かれている。
思わず苦笑いを浮かべると
「笑ってる場合ですか!2年生でもしっかり教えましたよ!」と怒鳴られてしまった。
「今日の放課後までにやり直し提出して下さい」
「はあ」
席に戻り問題を見直すが、何が何だか分からない。こんなの習ったか?必死に遠い昔の記憶を辿るが全く覚えがない。
ふと顔をあげると黒板にびっしりと書きこみがされている。いつの間にやら授業が進んででいたようだ。
将太はため息をつきながらノートへの書き写し作業をこなしていった。
将太は休み時間もテストのやり直しに追われていた。
美理から「一音~トイレ行こう~」と声をかけられても「行かん」ときっぱり断った。
空気が悪くなったが、将太は気付かない。中年のおじさんには、女子高生における連れションの大切さが分からないのである。
「それにしても、こんな問題が解けたところで何になると言うのか。使うことないぞ」
典型的な言い訳をブツブツ呟きながらやり直しを試みるが、全く分からないので最後の手段にでることにした。
昼休み、将太は弁当を早食いし、美理たちの「購買行こう」の誘いを断ると、問題用紙と携帯を手に裏庭へ向かった。
誰もいないことを確認し電話をかける。
数回のコール音の後、「ハイ、もしもし」としわがれた声が聞こえた。
「もしもし俺だ。微分積分とベクトル分かるか?分かるよな?」
「何だ藪から棒に」
電話の相手は晃太郎である。
どうやっても解けないものは聞くしかないのである。
「一音の為だ」本当はやり直しが終わらないと帰れなくなるからなのだが『孫のため』と言っておいた方が晃太郎も動いてくれるだろう。
問題を読み上げると晃太郎が、何やら呪文のような言葉を口にした。
「ん?」
「いいから書かんか」
どうやら呪文ではなく数式だったようである。
やはり全く意味は分からなかったが、どうにかこうにかやり直しが完了した。
「どうも。ただしこれで入れ替りの件、チャラになったとは思うなよ」と偉そうに告げ電話を切った。
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