第26話 三哉 森のお弁当にて(2)

お昼になるとサラリーマンや大学生の集団がワラワラと来店してきた。

「ハンバーグ弁当」

「おばちゃん、唐揚げ弁当」

「海苔弁!」

「幕の内を2つ~あ、やっぱり幕の内1つと日替わり1つ」


ヒエ~……!レジもボタンを押し間違えたのか変な金額が表示され出した。

三哉は半ば呆然としながら

「すみません……ゆっくり言って下さい」と頭を下げた。

「こっちは急いでんだよ!」

「おばさん、しっかりしてよ」

「ねえ、おつりまだ?」

ブーイングが飛んでくる。

声を聞きつけパートのおばちゃんが出てきた。

「上島さん、どうしたの?」

「あの~注文さばけなくて……」

「あらあ、交代しましょうか」

「すみません」

ホッとしたのも束の間。

あれ?交代ってことは厨房行かなくては?


厨房では森川が慌ただしく動いていた。

「上島さん、唐揚げ減ってきたの。揚げといて」

「どうやってですか?」

森川は、まあ!と呟き

「粉はつけてあるから、そのフライヤーに入れたらいいでしょ。」

三哉は恐る恐る鶏肉をフライヤーに入れた。

バチッと油が跳ねたので慌てて後ろに飛び退くと森川に「上島さん!」と叱られた。

「だって危ない……」

「危なくない!離れたら焦げちゃうわよ」

「あ~怖い……」とブツブツ呟きながら、必死に腕を伸ばす。油が音を立てる度にワーッと叫ぶ三哉に 森川も呆れ顔だ。


「上島さん、うるさいから弁当詰めやって」写真の見本通りご飯とおかずを詰める作業だ。

これなら出来るかも。三哉はやる気を出し弁当を詰めた「あれ?蓋が閉まらん」

微妙な匙加減なのだが、三哉にはどこがいけないのか全く分からない。四苦八苦しているとレジから「まだですか~?」と声がかかる。

ど、どうしよう。三哉がキョロキョロしていると森川がダーッと寄ってきて、チャッチャカ詰めていく。

「すみません」と謝る暇も与えられず

「上島さん、洗いものして」と指示を出され押し退けられてしまった。


三哉はガックリうなだれながら黙々と洗い物に取り組んだ。


お昼のピークが過ぎた頃、三哉はレジ係に戻ることになった。パートのおばちゃんに「すみません。ありがとうございました」と声をかけると

「良いのよ~たまにはこんな日もあるわ」と微笑まれた。何て優しいのだろうか、ありがたい。三哉はおばちゃんの背に手を合わせて拝んでおいた。


14時過ぎに杖をついたお婆さんが来店してきた。

「こんにちは。日替わり1つお願いね」

「はい。450円です」

お婆さんは財布を出しながらニコニコしている。

「やっぱりあなたの顔見ると落ち着くねえ」

この人がお母さんとのおしゃべりを楽しみにしてくれてるおばあちゃんか。

三哉は、笑顔のお婆さんを見て何だか嬉しくなった。お婆さんは椅子にちょこん、と腰掛けテレビの話や、離れて暮らす孫の話をしていく。


三哉は上手く返すことが出来なかったが、しっかり相槌を打って応えた。

そうして、三哉は亡くなったおばあちゃんの事を思い出していた。

友だちが出来ない、と泣く三哉の頭を撫でて「大丈夫、大丈夫。おばあちゃんは三哉くんのこと大好き。宝物よ。」と笑ってくれて、問題の解決にはなっていないが、とても安心できた。

僕もいつか誰かを安心させられる存在になれるのだろうか?



ひとしきり話終えるとお婆さんは「ありがとう、またね」と帰って行った。

ありがとう、と今日初めて言われた。


15時になり森川が「上島さん上がって良いわよ~」と声をかける。

「はい、あの今日は本当に……」

「謝らない!何があったか知らないけどクヨクヨしない!でも本当に辛い時は我慢せず

休む!あと猫背は直すこと!」バシッと背中を叩かれる。

森川はガハハと豪快に笑っている。

三哉は温かい気持ちになった。ここ最近こんな気持ちになったことは無かった。

今日の夕飯用の弁当を6つ持ち、背筋をピンと伸ばし自転車をせっせと漕いで我が家へと

帰っていった。

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