第22話 恵子 大海高校にて(2)
恵子は笑顔を見せ「ねえ、今日のお昼はどうする?」と聞く。
小池は「俺、弁当。学食行くならついてって、学食のテーブルで弁当食う」
渡辺も「あ、俺もそうしよ。」と弁当箱を手にし、今村は「お前、遅刻なのに弁当あるんだな。俺ないから学食」と言う。
4人で学食へ連れ立って歩きながら恵子は
「ねえ、何でお弁当持って行かないんだと思う?」と聞いた。
「はあ?」
「毎日作ってるのに……」
「作ってあるなら持ってけばいいじゃん」
「そうだよねえ」
恵子はいつも弁当を作っている。しかし、健二は持って行った事がない。
作るのやめようかな、と思ったこともあるが今日こそ持っていくかもしれない、という淡い期待を捨てられずにいた。
健二が持って行かなかった弁当は、晃太郎が食べるか小腹が空いた恵子が食べることになる。
そりゃ、見栄えが良い弁当じゃないかもしれない。でも、好きなおかずを入れるようにしてるし、お腹にたまるようにしよう、と考えているのに。
「健二、妙なところでひねくれてるからな。弁当持ってくのが恥ずかしい、とか心のどこかで思ってるんじゃね」今村が笑いながら言った。
まあ、恥ずかしい弁当だなんて心外だわ。
この際だから、健二に聞いてみようかしら?
「ああっ!!」
突如大声を出した恵子に3人がビクッとなる。
「どうした?」
「あ、ううん。何でもないの」
健二に聞いてみる、で思い出したのだが、
昨日一音に「川畑先生への恋心」について
聞くのをうっかり忘れてしまっていた。
年をとると物忘れが酷くて嫌ねえ
今日、一音になっているのは将太だ。川畑先生関連で何事もなければいいけど。
そんなことをぼんやり考えながら学食でメニューを選ぶ。
今日は500円を持ってきたので、から揚げ丼を食べることができた。
お昼を食べながら、小池が2人に
「健二、昨日吉田ともめたんだよ」と話す。
「マジかよ。吉田なんかとトラブル起こすなよ」
「あいつ殴れば解決すると思ってるからな。そんなの中学で卒業しろよな」
「あらあ、暴力はいつでも駄目よ。話し合いが大切なのよ」
恵子の言葉に3人は「健二変な話し方だな」と苦笑いを浮かべた。
「でもさ、吉田サボってるんじゃね?いるなら教室に乗り込んできそうだし」
「2ヶ月前に停学なったし教室にケンカしには来ないと思うけどな」
恵子は3人が話すのをフムフムと聞いていた。
昨日の梅学女子よりピリピリしていなくて不思議と居心地がよかった。
美理みたいに高圧的な子がいないからかしら、と恵子は考えながら、から揚げ丼を完食した。
放課後になり、3人から「ゲーセン行って帰ろう」と誘われた。
「あ、でも……」
入れ替り中なので早く帰りたい、とは流石に言えない。
「補導されないかしら?」恵子の問いかけはスルーされた。
「あ、それにホラお金持ってないし」
「俺バイト代入ったから奢ってやるよ。今村、渡辺の合コン失敗を慰めるためにも遊んで帰るぞ!」
小池に肩を叩かれた恵子は、少しだけ普段の健二の生活を体験して帰ろう、と3人についていくことにした。
学校から歩いて10分の所に、3階建てのゲームセンターがあり、若者の他、意外と中高年世代も多く賑わっていた。
小池から「とりあえず」と千円を貰う。
「ありがとう。返すからね」「別にいいよ」「あら、ダメダメ、ね」「はいはい」
小池は格闘ゲームを始めた。恵子も横に座り、格闘ゲームに初挑戦をする。
あらら~!上手く操作出来ずあっという間に負けてしまった。
恵子はむくれ、小銭を追加した。
「この、このー!えい!えい!」と喚いていると「恥ずかしいからやめろよ!」と小池に頭を打たれた。
恵子は舌を出しゲームを続けた。
結局、格闘ゲームは勝つことが出来ず、続いて4人でレースゲームをした。
普段、安全運転を心がけているだけに、大差でビリになってしまった。
クレーンゲームは、かすりもしなかった。
今村が上手くお菓子を沢山取ってくれたので、有りがたく分けてもらう。
出来ないなりに楽しかったわ。
満足していると「上島ー!」と怒鳴り声が響いてきた。
何かしら、と声のした方ー2階フロアを見ると、アッシュグレーの髪の男、吉田が口の端をゆがめ1階を見下ろしていた。
「まあ、昨日はごめんなさい」と謝ったが怒りの形相のまま階段を下りて来る姿が見えた。
「馬鹿!」小池たちに引っ張られ外に逃げる。「話せば分かるかも……」「分かるわけねーだろ!」
4人揃って騒ぎ、時おり笑いながら走って逃げた。
恵子は、健二の体だと速く走れるのね、と思いながら、ひたすらに足を動かしていった。
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