第19話 健二 ツバサ観光にて(2)
約束の時間になり四つ葉スーパーの事務所へ向かう。
事務所は広かったが趣味の悪い置き物や高そうな時計がいくつも並べてあった。
「無駄遣いばっかしやがって」健二が舌打ちをしたところ、やたら派手なスーツの中年2人が事務所に入ってきた。
宮田が深々と頭を下げる「お時間を頂きありがとうございます」
健二は困惑しつつ軽く頭を下げた。
「別にいいんだけどさ~値段、割り引いてくれるよね?」
笑いながら言う中年その1が四つ葉スーパーの部長だ。名字は
派手な宝石がついた結婚指輪をつけている。
こんな奴が、結婚できるのか。
金目当てか?政略結婚か?
健二は、どうでもいい所で頭を使った。
中年その2は主任。鼈甲の眼鏡をクイクイと動かして豊部長の言うことに一々頷いている。部長の腰巾着だ。
宮田が申し訳なさそうに「あの、ご説明させて頂いていますように、これ以上は値引きが不可能でして」と言うが
「不可能とか簡単に言うなよ」と軽く返されてしまった。
「社員旅行で大勢が行ってあげるんだからさ~安くするのが当たり前でしょ?
こういう場で売り上げ伸ばさないと、小さい会社なんだから潰れちゃうよ?
普通そちらから安くしますって言うんじゃないかな?」
一々いらつく話し方だ。
健二は豊を睨み付け、拳を握るが必死にこらえた。
クビになったら、一家が路頭に迷い『お前のせいだ』と働かされることになるだろう。そんなの嫌だ。俺はまだ遊びたいんだよ。
「そちらの課長さんもさ~少しは部下の教育ちゃんとしなよ?」健二が無言でいると「聞いてる?何のためにアンタついてきてんの」としつこく言ってくる。
「あの、宮田が言ってることは間違ってません。もう十分に引いた金額で、これは会社の方針です。」
健二が棒読みで言うと、途端に豊の顔色が変わる。
「おい、こっちは客だぞ!
いいか、俺はお前らのせいで迷惑を受けたってツバサ観光に言っていいんだぞ!
ツバサ観光は客の話を聞かないって触れ回れるんだ!
俺の話を聞かなくて辞めていった奴が沢山いるんだぞ!
食品会社の営業や教師だって辞めていった!お前らもそうなりたいのか!」
完璧に脅迫だ。
宮田は縮こまって、うつ向いている。
健二は呆れ、「いや、別に辞めねーし」と小さく呟いた。
「いいか!とにかく下げろよ。また来い!」
結局何も解決しないまま事務所を追い出されてしまった。
「クソッ!何だよあのおっさん!」健二は石を蹴飛ばしながら喚いた。
宮田は下をむきながら後ろを着いてくる。
コインパーキングに戻り車に乗り込む
「ふざけんじゃねーよ、あんなの許しといていいのかよ」
宮田は返事をしない。車を動かそうともしない。
「上島課長、俺仕事辞めようと思って」と突然言ってきた。
「え?」そんなこと俺に言われても。
「もう、精神的にきついんです。
さっきの四つ葉スーパー、今日はまともな方ですよ。この間なんて、何もできないなら死んじまえ、って怒鳴られたし。」
「待て待て待て。あんなおっさんの言うこと聞くな。大丈夫だ。松田に言って担当はずしてもらえ」
健二にしては至極真っ当なアドバイスである。
「俺、この仕事自体は好きなんです。でも、もう限界です。
俺が退職しないのに担当外れたら、四つ葉スーパーまた文句言うと思うんです……」
「だからあんなのまともに相手すんなよ!」
「上島課長だって、精神的に落ち込む気持ち分かりますよね?昨日泣いてたし。だから話したんですよ」
「泣いた?」三哉のアホ、肝心なことは報告しない。
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