2日目

第18話 健二 ツバサ観光にて(1)

2日目の朝は、やや曇り空だった。

健二は中年太りの腹をさすりながら空を見上げた。


会社なんて、ダルくて行く気が起きなかったがヘタレの三哉が1日過ごせたんだから大丈夫だろう。

そんな軽い気持ちで健二はツバサ観光へと向かった。


「おはようございます」出社していた面々の挨拶に健二は片手を挙げ「どーも」と応えた。


席に着き、始業まで一眠りしようとしていると女子社員2人が

「……体調良くなられたんですか?お元気そうで良かったです」と、声をかけてきた。

体調?健二は眉間に皺を寄せた。

何だ?三哉、昨日何やらかした?


考えていると若い男性社員が

「課長、今日は宜しくお願いします。」と頭を下げてきた。

社員証には「宮田」と書かれている。「あ、お前が宮田か!」

「え?はい」

「気にすんなよ。どーせ向こうが悪いんだろ」健二は努めてにこやかに言った。

「……ありがとうございます。あの、朝礼終わったらすぐ出ます?」

「10時時約束だろ?早くね?」

四つ葉スーパーの事務所がどこにあるか知らないが。


宮田は首をブンブン横に振った。

「だって四つ葉スーパーですよ?

万が一遅刻したら何を言われるか……早く着いたらどこかで時間潰しましょう」

そういうものなのか。健二は頷いた。


朝礼後、店長の松田から

「上島、悪いけど頼むな。俺も店長会議終わったら1時には戻れると思うから」と肩を叩かれた。心配そうな表情を浮かべている。

四つ葉スーパーとはそんなに面倒なところなのだろうか?

「オッケー、オッケー」健二の答えに

松田は「昨日と違って堂々としてるなあ」と呟きながら出発して行った。



四つ葉スーパーへは車で向かう。

健二は免許を持っていないので、もちろん宮田が運転をする。

助手席に座り、宮田を見てみると唇を噛みしめ、目は死んでいる。

「なあ、大丈夫か?」

「はい、すみません。大丈夫です」

大丈夫そうではないで声のトーンである。

健二は、コイツ事故らないだろうか、と冷や冷やしながら宮田を眺め続けた。


四つ葉スーパーは県内に8店舗を構える地域密着型スーパーだ。

安くて安心の地元産、がモットーで主婦から人気が高い。

しかし一族経営で無茶苦茶を言ってくる為、取引先からの評判はすこぶる悪い。


やはり早く着き過ぎてしまった為、車をコインパーキングに停め、しばらく時間を潰した。

「なあ、何か飲むか?」

「いえ、話してる途中にトイレ行きたくなったら困るので」

そういうものなのか、社会人って大変だな、と健二はぼんやり思った。

「あ、ところでさ俺はついてって何を言えばいいんだ?」

「え?」宮田は、自分で考えたら分かるだろ、という表情を一瞬だけ浮かべ

「四つ葉スーパーは社員旅行の値下げを要求してます。

でも、今ので十分引いた金額なんです。これ以上は宿にも交渉できませんし、利益も出ず赤字になってしまいます。

なので、その旨をツバサ観光の方針であると、改めて伝えてください。」

「はい、はい、オッケー」

健二の軽い答えに宮田は心配そうである。

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