第17話 上島家にて
「ただいま」
三哉が帰宅するとワラワラと家族が出迎えてきてくれた。
「三哉お帰り!電話の後どうだった?」
「上手く出来なかった。疲れた」三哉がうつ向くと、将太は顔を引きつらせながら
「まあ、仕方ない」と言った。
「とにかく、ご飯食べましょ。話はご飯の後よ~」恵子は軽い体が嬉しいのかスキップしながらリビングへ戻って行った。
食卓には将太の作った肉野菜炒めと豆腐の味噌汁があった。
「いただきます」と皆口に運ぶが箸が進まない。
「何だよ、これクソ不味いな。」
「味噌汁辛いんだけど。味見したの?
だいたい何で豆腐だけなのよ?ワカメでも 油揚げでも入れれば良いでしょ」
肉野菜炒めは水分が出て、べちゃべちゃだし味噌は目分量で入れたのでものすごく辛くなってしまったのだ。
「うるさい!文句言わずに食え!」
「お父さんだって、今日のご飯は魚か~肉が良かったな、とかブーブー言ってるくせに」
「まあまあ、折角お父さんが作ってくれたんだから。でも、明日からは私が作るか買うことにしましょ」
将太は、頑張って作ったのに、と年甲斐もなく膨れっ面になっている。
「おじいちゃん、疲れたよ」三哉は隣に座る晃太郎に小声で訴えたのだが、
「人はそうして成長していくもんだ」
そうだろうか?成長に入れ替わりが必要だなんて、そんなはず無い。三哉はため息をつきながら美味しくない夕飯を黙々と食べ進めていった。
皆、疲れた表情を浮かべながら夕食を食べ終えた。
「お風呂入る?それから話し合いしましょ」と恵子に言われたが一音は
「おじいちゃん、11時には一旦戻るんでしょ?私は自分の姿に戻ってから入りたいから、お母さん入らないで」と淡々と言った。
「なら、俺入ってこよ」健二が言うので、三哉は「え~恥ずかしいから止めてよ」と主張したが「アホか!ジロジロ見たりするとでも思ってんのか!俺はお前になんて興味ないんだ!」と一喝されたので押し黙るしかなかった。
健二が上がった後、三哉、将太も風呂に入る。
健二はふと、
「あれ?一音入らないってことは、11時に元に戻ったら俺もう1回風呂に入らないといけないのでは?」と気づいた。
しかし
リビングに集まり報告を始めることとなった。
一音が、真っ先に口を開く
「亜沙美って誰」
健二は飲んでいた麦茶を吹き出した。
「……何で」
「小池に聞いた。ああ、小池はなかなか良い奴ね」
「別に……ただの元カノ」
「同じ学校?ブス?」
「別にいいだろ。うるせーな」
「あとね~アンタの友だち合コン失敗で学校サボってたわ。良くないわよ」
健二は頭を抱えた「もう、いいだろ」
「あ、あとね補習ちゃんと出てやったわよ。色々あってアッシュグレーの髪の吉田とかいう馬鹿が怒ってるかも」
「吉田か。あいつ、しつこいんだよ。余計なことすんなよな……」
健二がむくれる中、三哉がおずおずと手を挙げた。
「あの~何で顔怪我してるの?」
「あ~人助け?」
健二が事情を話すと三哉は「大人しくしててって言ったのにー」と嘆いた。
「黙れ!済んだことは仕方ない。
あのな、俺がやんなきゃ丸助はもっと酷い目にあってたんだぞ?」
健二の勢いにおされ三哉は頷くしかなかった。
次いで報告する番になった三哉はうつ向き「お兄ちゃん明日大変かもだけど頑張ってね」と小さく呟いた。
「何だ?」健二と将太が詰め寄る。
「何か社員旅行のことで、四つ葉スーパーに」
将太が顔をしかめ
「あそこの担当者、傍若無人なんだよ。
健二こらえろよ。」「おう」傍若無人の意味が分からない健二は軽く応えた。
将太は「家事と主婦付き合いは難しい」とだけ報告した。
晃太郎は、プッと吹き出したので、
『誰のせいだと思ってんだ』と睨まれてしまった。
恵子は、気まずそうに
「あのーお友だちとちょっとピリピリしちゃったかも」と報告した。
「何でよ」
「お隣の席の羽山さんに挨拶したら……」「喋んなくていいって言ったじゃない!」
リビングにピリッとした空気が走る。
「だって、いじめよくないわよ」
「別にいじめてない」
「あら、じゃあどうなるといじめなのよ?皆で無視して悪いわよ!」
一音は唇を噛みしめた
「だって美理が羽山トロくてうざいって。
話してもノリが違うしイライラするって」
「くっだらねー!」健二が喚いた。
「合コン失敗で学校来ない方がよっぽどまともだな。
人に言われて無視するってお前には自分の意思ってもんがねーのか。トロくてお前に迷惑かけたのかよ、馬鹿じゃねーの?」
「女子には色々あんのよ」
一音はプイと横を向いた。健二は怒りが収まらずギャンギャン吠えている。
リビングの空気が悪くなったので三哉は悲しくなった。
恵子はため息をつきながら
「一音、健二の言うことも正しいわよ。よく考えておきなさいね」と呟いた。
そして気持ちを切り替えるかのように手を叩き「ほら、2日目の伝達事項も教え合いましょ」と言った。
ギクシャクした空気のまま伝達事項の確認をしていく。
「11時になるぞー!」
晃太郎の大声が気まずい雰囲気を打ち破った。
数時間だけど戻れる!
「どうやって戻るんだ?」将太が喚く。
三哉はドキドキしながら、11時を待った。スウーッと睡魔が襲ってきた。ぼんやりする意識の中、家族を見ると皆、こっくりと寝ている。
肩を揺すられ目を覚ます。
時計の針は11時1分を指している。
「凄いだろ。たった1分寝てる間に元通り」晃太郎は誇らし気だ。
「痛ッ」口の中が腫れている。三哉は顔を触った。
髭がない!ああ懐かしの自分の身体!
一音は「お風呂」とバタバタしている。
「明日に備えて早く寝なさい」
恵子が丸い顔にいつもの穏やかな口調で言う。
三樹は頷き自室へ戻り布団に入ると
「2日目は上手く頑張ろう」と呟きすぐに眠りについた。
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