第14話 健二 緑野中学校にて(3)

午後の授業、健二は居眠りをしなかった。が、相変わらず不機嫌な表情のまま、しかし時たま不敵な笑みを浮かべていた。

おまけに目付きはすこぶる悪い。

『上島三哉どうしちゃったの』という空気だが気にせず過ごした健二であった。


さて、放課後である。

体育館裏へ急ごうと立ち上がる健二に

「上島、ちょっと」と川上が手招きをする。

逃げたいところだが、川上から逃げることの難しさはよく知っている。

健二は顔をしかめながら教卓へと向かった。


川上は頭をかきながら「今日は兄ちゃんの真似か、とか言って悪かったな」と言う。

「は?」

「あの言い方だと健二にも悪いよな」

意外な言葉が続いた。

「だけど、まあ制服はきちんと着るのが決まりだからな」

よく意味が分からない。

健二の表情から察したのか「あの言い方だと、健二の真似して、って言ってるみたいだったろ?」

そうだろうか、今まで散々叱られてきたのであまり気にならないのだが。

「健二と姿が被って、憎くて叱ったんじゃないんだぞ。俺は健二のことを嫌ってる訳じゃない。校則は守ること。

健二は健二、三哉は三哉。兄弟だからって比較してウジウジしたり逆に優越感に浸ったりしちゃいかんぞ。

人に迷惑をかけず、自分の好きなこと見つけて、それぞれ長所をのばしていけばいいんだ」

「はあ」

何だかよく分からないが、川上は思ったより嫌な教師ではないのかもしれない。


川上の話が終わり廊下に出ると丸助が待っていた。

「三哉くん、ねえ本当に行くの?」

「当たり前だろ。大丈夫だ」

これはケンカとかではない、人助けなのだ。もしバレても川上は許してくれるだろう、健二はそう考え体育館裏へ向かった。


10分ほど遅れて到着した3人を健二は仁王立ちで迎えた。

丸助は健二の後ろで精一杯縮こまっているが横に大きいので丸見えだ。

「おい、いくら取ったんだよ」

「は?借りてるだけじゃん」

3人はニヤニヤしたまま言う。

「借りてる?なら今すぐ返せよ」

「お前さー何なの?普段大人しく暗く過ごしてるくせに。兄貴が強いからって調子のんなよ。」


三哉たちが中一の頃、健二は中三だったので有名なのだ。

そのが目の前にいるとは全く思うまい。

「三哉くん、もういいよ。帰ろ。危ないよ」丸助がうなだれている。

えーい、鬱陶しい!小学生の頃から知っているが三哉共々ヘタレだ。


健二は丸助の訴えを無視して前を見据えた。

「口で言っても分かんねーなら仕方ない」「は?上島いい加減にしろよ」

不良その1が殴って来たので、脛を蹴り腹を殴る正当防衛をお見舞いすると、口ほどにもなく、うずくまっている。

三哉の体だから、上手く動くか心配だったが大丈夫なようだ。


不良その2、3が健二を地面に倒そうと掴みかかってくる。

「み、三哉くーん」丸助が情けない悲鳴を上げるのをよそに、健二は倒されるより早く、1人の腹を蹴り、もう1人の腕を掴み捻りあげ応戦する。

相手が呻いているところ、頭突きをするとフラフラと倒れてしまった。

何だ、余裕じゃないか。


逃げようとする不良その1の背中を蹴っ飛ばすと、こちらもあっけなく転んでしまった。

「何度も言わせんなよ。おい、お前いくら取られたんだ」

「……5万位かな」丸助が小さな声で答える。

「他にも取られた奴いるだろうな……。」

健二は倒れている3人に「1週間以内に金持って来い」と冷たく言い放った。

「……無理」

「あ?いいから持って来い。他の奴らにも全額返せ。更にカツアゲして返すなよ。

自分で返せないなら親から貰ってこい」

「親ってバカかよ……」不良その2が懲りずに文句を言う。

腹が立ったが、これ以上殴ると傷が目立つ危険性があるため、背中をつねるだけに留めることにした。

「痛い!上島痛いって!」


「1週間以内だぞ。期限内に返せなかったら家まで回収しに行くからな」

健二が立ち去ると丸助も後ろをトコトコ付いてきてた。

先ほど殴られた時に口の中を少し切ったようだ。健二は血を手で拭いながら丸助に

「この事は誰にも言うなよ」と忠告をした。

丸助は目を輝かせ何度も頷いた

「言わないよ!三哉くん、強いんだねえ」

「今日限定だけどな」

健二は小さく呟くと2人揃って学校を後にした。

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