第13話 健二 緑野中学校にて(2)

中学時代を思い出す。

健二は中学生の頃、瞬間湯沸し器タイプでケンカっ早く、しょっちゅう揉めごとを起こしていた。

その度に両親に連絡がいき、川上から厳しく説教をされ、優しく諭され、の繰り返しであった。

高校生になってからは、だいぶ丸くなった方だと思うが、周りからは「仲いい人に対して以外は結構怒りっぽいでしょ」と言われてしまう。

もう少し、落ち着かないといけない自覚はあるのだが、なかなか上手く行かない。



登校して来た時は『相手にされていない』だけだったが今は『目を合わすな』といった雰囲気になっている。

別に俺だっていつもイライラしているわけじゃないんだ。こんな突然中学生になってしまった変な状況のせいなんだ、と言い訳をしたくなる。

「はあー」健二の大きなため息にビクついた前の席の生徒は、立ちあがり何処かへ行ってしまった。



給食は座席順で班になって食べねばならず先ほど椅子を蹴った男子生徒も同じ班だったので結構気まずい。

健二にうっかり絡まれないように、皆てんでバラバラの方向を見ながら黙々と食べている。

他の班から賑やかな話し声が聞こえてくるのとは対照的だ。

とにかく早くこの時間が過ぎて欲しい。

久しぶりの給食だったが、懐かしい味だとか、美味しいとかを思うことはなかった。


給食が終わると掃除の時間である。

掃除なんかしたくない健二は、階段にどっしりと座り込んでいた。

教師はおらず普段と違う妙な迫力に注意をする生徒もいなかった。


あと少し、午後の授業を受ければ帰れる。我慢だ、我慢。

心の中で、念仏のように「我慢、我慢」と唱えていると

「……三哉くーん」背後からか細い声がしてきた。

見ると声とは反対に太っちょの生徒が雑巾片手に立っていた。


あれ?こいつ見たことあるぞ。名前が出てこない「えーと、お前誰だっけ?」

「三哉くん酷いよ~」名乗る気は無いらしいので必死に記憶を辿る。

あ!丸助だ!

三哉の数少ない友だち。三哉と似た大人しい性格で小学校の頃はよく家に遊びに来ていた。まん丸の丸助と一音と呼んでいた。本名は覚えていない。


「あのね相談があって……」

「何だよ。俺にできることか」

今日初めてまともに会話が出来そうで健二はノリノリだ。

「三哉くんのお兄ちゃん強いよね……?」「あ?」

「あの……お金をね……取り返してもらえないかな……って」

「金?」

丸助と同じクラスの不良3人から定期的にたかられ、貯めてきたお年玉も無くなり、無理だと言うと殴られ、もう限界だ、でも親には心配かけたくない、と涙ぐんでいる。


健二は素行は良くないが、真面目に過ごしてる生徒を殴ったり、カツアゲなんかはしたことが無い。

同じ程度の者とケンカをして少し拝借したことはあるが。


「あのなー高校生が中学生のケンカに手出せるか!今日いってやる」「今日?」

丸助は目をパチパチさせた。

と言うか今日しか無理だ。


健二は丸助のクラスへ向かう。

健二同様、掃除をせず廊下にたむろしていた3人の目立つ不良に「おい、放課後絶対に体育館裏に来い」と告げる。

3人は「上島が何を」と笑っていたが

「面白いから行ってやるよ」と馬鹿にしたように言った。

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