第11話 恵子 梅学高校にて (3)
教室に戻ると羽山がひとりでお弁当を食べていたことが気がかりだったが、声をかけることはできなかった。
何でこんなことになってるんだろう。
悲しい気持ちになりながらサンドイッチを口に運ぶ。
恵子は学生時代、県内の田舎の方で過ごしていたので、皆幼なじみみたいなものだった。
たまにケンカはあったものの、あからさまな仲間外れ等はなく楽しく学生生活を送ることができた。
恵まれていたのだなあ、と今さらながら思った。
「そういえば昨日ね中学の友だちが合コンしたんだって」
栞が小さなお弁当箱の、これまた小さな卵焼きをもぐもぐ食べながら話し出した。
「え、高校生なのに合コン?大丈夫かしら?」
「一音、何言ってんの。栞、それで?」
「したらね~年下の男の子ばっかり来て、しかも、めっちゃぐいぐい来るからウザくなって途中で帰ったって。」
「ああ、がっついてると面倒だよね」
「うちも年下はやだー。話合わなそう」
「でも、合コンで黙ってられるのも嫌だよ。まあ、受験終わるまでは付き合えないだろうけど」
世間は狭く、この合コンの相手に健二の友人の今村知也、渡辺晶人が含まれていることはもちろん誰も知らない。
恵子は4人が盛り上がっていることに、へえ、と頷きながら心の中では「あいつはあいつは可愛い~」とキャンディーズを熱唱していた。
世代ではないが、好きな曲が多く家事をしながらよく歌っているのだ。
歌も終わりに近づいた頃
「一音も興味ないよね。一音が興味あるの
「え?」
川畑?誰かしら?
「でも川畑と
久木野は知っている。昨年、一音の担任だった30前後の日本史の教師だ。
確か、退職したはずだ。
「ど~する?一音」美理がにやにや笑いながら聞くので、ふふ、と曖昧に笑うだけにとどめた。
「あ、川畑の隠し撮りあるよ。見る?」真菜が携帯を取り出し恵子に渡す。
「あ!」
写っていたのは4時間目に現れた英語教師だ。穏やかな語り口で、優しく笑う人だった。年は久木野と同じくらいに見える。
ははあ、一音はこういう人がタイプなのか。一音は性格が強いというかキツいから、あまり優しすぎる人はついていけないかもしれない。
それとも好きな人には尽くしたりするのだろうか?
でも、教師に恋するのは不毛だわ、もし万が一付き合えたとしても、バレる恐怖に怯えて過ごさないといけない。
「おーい、一音?」
「ああ、ごめん、ごめん」
帰ったら一音に聞いてみようかしら?
いや、でもねえ、恥ずかしいだろうし、悩むところね。
「一音?大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
衝撃の昼休みが明け、午後の授業もやはり内容は理解できなかったが、無事に終わった。
結局隣の席の羽山とは口をきけないまま1日が終わってしまった。
ごめんなさいね、心の中で謝り、恵子も教室をあとにした。
はあー。久しぶりの学校って疲れる。
そう思い歩いていると、校門近くの花壇に水をあげている川畑の姿が目に入った。
ほうほう、この人がー
あまりにも凝視していたので「上島さんどうかした?」と声をかけられてしまった。
「あらら、何でもないです。さようなら!」
「気を付けてね。さようなら」
びっくりした。少しドキドキしながら、普段よりもだいぶ軽い体で駆けていく恵子であった。
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