第10話 恵子 梅学高校にて (2)
休み時間になると美理が笑いながら
「一音どうしたの~珍しいじゃん」と話しかけてきた。先ほどまでピリピリしていたのが嘘みたいだ。
恵子は「うっかりしてて」と愛想笑いを浮かべてみせる。
羽山との事情は帰ってから一音に問い詰めることにし、とにかく今日を上手くやり過ごそう、と気持ちを切り替えることにした。
私は女子高生、私は女子高生と心の中で何度も念じる。
それにしても女子高生ってどうすれば良いのかしら?
家での一音を思うに、手を叩いてゲラゲラ笑ったり恋の話をルンルンとするタイプには思えない。それとも家と外では全く違うのかしら?恵子は迷った。
あ、そうだ!と名案を思いつき「放課後ケーキバイキング行かない?」と4人に尋ねる。女の子は甘いものが好きだもの。これぞ女子高生!私もやれば出来るわ!と鼻息荒く恵子が思っている中、美理と真菜が白けた表情を浮かべた。
「あのさ、私らダイエット中だって言ったよね」
「え!?全然太ってないのに!」
まずい。空気が驚くほど悪い。
「何それ、嫌味?」美理が冷たく笑う。
だって、本当に太っていないのだ。膝上のスカートからのぞく足なんてスラッとしているし、どこがウエストかきちんと分かる。
恵子は慌てて頭をめぐらした。
「いやいや、家のお母さんなんてすっごく太ってるし。高校生の頃丸々しててあだ名が大関だったんだよ。どうせなら横綱にして欲しいよね~」恵子の自虐もダダ滑りしてしまった。
ど、どうしましょう。一音ごめんなさい。お母さんには女子高生は無理みたいよ。
心の中で謝っていると、早奈子がパンッと手を叩き「まあまあ、みんな暗いよ~」と笑う。「一音のママ太ってるんだ。一音も気を付けないとだよ~」とお腹をくすぐってくる。
それにつられ、残りの3人も恵子をワシャワシャとくすぐる。
「ひゃひゃ、やめて~!」
くすぐったいのは苦手だが、さっきまでのピリピリした空気がなくなったのは幸いだ。
チャイムが鳴り4人が、ばたばたと席に戻っていった。
恵子は大きく息をはき、少しよれた制服を整えた。
どうやら美理がグループの、いや、クラスのリーダー格であるらしいこと、早奈子は場の空気を読んでくれることを察した。
女子グループってこういうことがあるから嫌よね、クラスの保護者会でも強い人がいると周りが萎縮してしまう。
ましてや学生のうちは、そういう人を、のらりくらりと、かわす術を知らない子も多いから辛い思いをすることもあるだろう。
恵子は隣の羽山をちらり、と見る。
何が理由か分からないが、美理に目をつけられてしまったのね。どうにか解決できないものかしら。
悩んでいると前の席から何やらプリントを配っている。
「成績には考慮しませんが、抜き打ちテストします。教科書しまって。」
「え!無理!」とクラス内で叫んだのは恵子だけであった。
さすが進学校の受験生である。
「上島さん、何が無理なの?」
「あはは、嘘です、嘘」
しかもよりにもよって数学だ。問題を見てみるが、何から手をつけていいのか全く分からない。問題の意味も用語も分からない。何一つ分からない。
名前だけは書いたけど後は降参です。学生って大変ね。
恵子は今日何度目になるか分からないため息を大きく吐いた。
その後の授業は内容は全く理解できなかったが、必死にノートをとり、何とか無事に過ごすことができた。
昼休みになり、4人と机を寄せ合いお昼を食べることになった。
恵子はお昼を持ってきていなかったので早奈子と購買に行く。
購買には主にパンが売ってあり、意外とガッツリ系のものもあった。
カツサンドを手に取る恵子に、早奈子が「ねえ、やめたがいいよ」とたまごサンドを手渡す。
「え?」
「さっきダイエットの話あったでしょ?カツサンドなんて食べてたら、一音は痩せてるから~ってなるよ?」
「えー」
カツサンドひとつでも足りないから菓子パンも2つ位足そうと思っていたのに。
「どうしたの?普段は上手くやってるじゃん?今ハブられたりしたら受験勉強にも集中できなくなるよ?」
納得できなかったが、頷くしか選択肢はなかった。
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