第8話 一音 大海高校にて (3)
バカで顔も良くなく素行不良の弟に彼女がいたことがある、という驚きの事実を知り動揺した一音だったが午後の授業も真面目に受けた。
小池は相変わらず寝ていた。
何か問題があり帰れなくなるのは嫌だった。とにかく無事に無事に過ぎて欲しい。
一音の思いを叶える終業のチャイムが鳴った。やった!何事もなく帰れる!
小池は大きく伸びをすると「ああーバイトだ~」とあくびをした。
「バイト?どこでしてんの?」
何だかんだ世話になったので1回くらい買い物に行ってやろう、と思ったのだ。
「……駅前のコンビニだよ。あのな、お前あんまり物忘れ続くなら病院行ったがいいぞ」
「ああ、大丈夫大丈夫。今度行くから。じゃあ、頑張ってね」
クラスのみんなさようなら!と思って喜んでいた所「上島、補習だろ」と教師に呼び止められてしまった。
補習!何と!あの馬鹿が!
「今日じゃないと駄目ですか?」
「駄目」教師は実に簡潔に答えた。
さて、補習のある教室に連れて行かれると
20名ほどの生徒がいた。皆やる気は無さそうだ。
小池は健二ほど成績が悪いわけではないらしく バイトに行ってしまった。
あ~!私が補習だなんて。
一音は、むくれながら一番前の席に着いた。
「上島ー後ろ座んねーの?」ソフトモヒカンの生徒が大声で尋ねるが「ここでいい」ときっぱり答えた。
補習開始5分前に教室に入ってきたのは、あの憎きアッシュグレーの髪、吉田である。
吉田は健二を見つけると「シスコン、シスコン」と下手なリズムで歌いながら1番後ろの席に着いた。
一音は舌打ちをし、どうしてくれようか、と腸煮えくりかえっていた。
補習が始まり数学の教師が問題の要点を説明する。
一音にとっては簡単な問題ばかりだ。
「このプリント解けた者から帰って良いからな。ただし適当に書くなよー。きちんと、考えろ」2枚のプリントが配られると周りから悲鳴やいびきが聞こえてきた。そんな中、一音はチャッチャと問題を解いた。
10分程で解き終わり提出すると周囲がざわざわし出した。
「上島……どうした?」教師も困惑している「いいから早く採点してください」
教師は動揺しつつ採点を進める。「……全部合ってる」しまった、やりすぎたかな?
周りの驚きもピークに達した。「どーしたんだよ!上島ー!」「いつも寝て最後まで残ってるのに!」いつもって、何回補習出てるのよ。
「上島、よくやったな。帰っていいぞ」教師は感激のあまり涙ぐまんばかりである。
一音は喧騒の中帰り支度を始めた。
「上島~!ふざけんなよ!お姉ちゃんに答えでも聞いたんか」吉田が笑う。
ああ、そうよ。お姉ちゃんが解いてやったわよ。
「こら、吉田黙って計算せんか」吉田は教師に注意されてもヘラヘラ笑っていた。
一音は鞄を持ち教室の扉まで行くと、本日の怒りをぶつけることにした。
「吉田!こんな問題も解けないなら保育園からやり直してこい!この常識なしの脳なし!保育園児の方が話通じるわ!
それに、あんたみたいな顔面の奴が、人の美醜をとやかく言うな!美醜って意味分かる?!どうせ分かんないでしょうね!
2度と人に対してブスとか言うなよ!
クソ!!ばか、ばか、ばーか!」
閉めた扉の向こうから怒声が飛んでくるので走って逃げることにした。
ああー!疲れた!!ばか連呼は小学生みたいだったかな。
明日の健二の中の人、え~と、お母さんか。絡まれたらゴメンなさい。だって我慢できなかったんだもの!
心の中でそう呟き、朝通った自転車20分の道のりを、猛スピードで帰っていったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます