第6話 一音 大海高校にて (1)
私立
普段はバス通学の一音にとっては結構な運動となった。
「ああ、朝から疲れる」一音は舌打ちしながら校舎を睨み付けた。
大海高校はスポーツに力を入れている学校だ。中でもサッカー、テニス、剣道などは全国大会上位常連。
クラスも体育科4クラスと普通科4クラスに別れている。
普通科は、勉強が苦手で入学してくる生徒が多い。健二はもちろん後者である。
1年5組が健二の教室だ。
扉を開けると派手な生徒が沢山いた。
健二も似合わない金髪だが、この中では普通みたいね、と一音は思った。
席に着こうと移動していると
「健二~どうしたんだよ。その格好」と背中を思いっきり叩かれた。
「痛っ!」
振り返ると赤に近い茶髪の男子生徒が立っていた。
「制服、ちゃんと着てるじゃん」
「当たり前でしょ……じゃなかった。当たり前だろ」
健二は普段、シャツをダラダラ着たりピアスやらでウロウロしている。
一音は健二が見ていない隙にきちんと制服を着て家を出て来たのであった。
一音が席につくと、茶髪の生徒も後ろに座った。
健二からの伝達事項を思い返す。
健二はいくつか携帯の写真を見せながら
『仲いいのは後ろの席の
あとは
何か絡まれたりしてもケンカすんなよ。』と言っていた。
「コイケ……ユウタ……」
「何だよ。健二どうした?」小池が笑う。「コイケ、コイケ。覚えたから。何かあったら頼むね」
「健二、どうした?変だぞ。どっか体調悪いのか、保健室行くか?」小池は顔をしかめた。
小池はチャラチャラした外見の割に良い奴なのかもしれない、と一音は思った。
チャイムが鳴り教師が姿を見せると他の生徒たちも席に着き始めた。
さてノートでも取るかと思い鞄を見るが漫画と財布、携帯しか入っていない。
今朝、健二に鞄を渡された時、軽いなとは思ったのだがこんなに何も入っていないとは。
引き出しを覗くと教科書が詰め込まれてあった。
全教科置き勉してある。「だから馬鹿なのよ」一音はむくれながら教科書を取り出した。
ふと周りを見渡すと殆どの生徒が机に突っ伏している。
後ろの小池をちらりと見てみると頬杖をつきながら大あくびをしていた。
教師も気にしていない様子で淡々と授業を進めている。『寝てても問題なし』とは本当だったらしい。
一音は普段と変わらず過ごそうと思い、簡単な内容だったが真面目に授業を聞いた。
後ろの席から小池がペンで突いてきても振り返ることなく過ごした。
終業のチャイムが鳴ると先ほどまで寝ていた生徒たちがムクリと起き、ワイワイと喋りだすので騒がしくなった。
教師が心配そうな表情を浮かべ近づいてきた「上島何かあったのか?」
「は?」
「お前があんな真面目に聞いてくれるなんて……。嬉しいけど不安でもある。何かやらかしたか?怒らないから言ってみろ」
何かあった、と言えば家族入れ替わっちゃいましたが。
「……当たり前の事」
「本当か?表に出ていない警察沙汰のことでもあるんじゃ……」教師は真剣である。
一音は呆れつつ「何もないです」と答えた。
そんな様子を見ながら小池をはじめ周りの生徒はゲラゲラ笑っている。
不愉快だわ!!
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