1日目

第4話 将太自宅にて (1)

さて入れ替り1日目である。

家族はどう思っているか知らないが将太は一家の大黒柱を自負している。

しかし今回は妻、恵子の方が落ち着き仕切り自分は何も出来なかったことに少なからず落ち込んでいた。


しかも三哉には「大したことしなくていいなら大丈夫だ」とまで言われてしまった。全くもって不愉快だ。


全ての元凶である晃太郎を睨むが

『お笑い芸人、美人女優と熱愛』を伝えるワイドショーに夢中になっており、こちらには気付かない。不愉快さが増した。


「なあ、テレビ見てる場合か」と声をかけたのだが「情報収集だ」と画面から目を逸らさずに返事がきた

「何が情報収集だ!」将太は頭をかきむしりながら地団駄を踏んだ。

思ったよりも大きくドスドスと音が鳴る。


今、自分は恵子の姿だ。

昔からぽっちゃり気味だったが、立派な肥満体型になっている。

まあ、俺も腹が出ているから言えた義理ではないが、少しダイエットした方がいいんじゃないか?


晃太郎からリアクションが返ってこないため将太は怒ることを諦め、これからすべき事を考えた。

幸いなことに今日はパートもない。

引きこもっていても問題がないのは有難いことだ。

恵子からの伝達事項も「家事だけしておいて」だった。

自分が一番楽に違いない。



独身時代は何でも出来たのだ。最近は手伝っていないが今だって出来るに決まってる。

手始めに洗濯だ。

ドラム式だ。独身時代とは違うが、こんなもん入れてスイッチ押せばあとは機械がやってくれる。

洗濯カゴの中身を放り込み洗剤、柔軟剤をドバドバ入れスイッチを押した。



洗濯を回しているうちに掃除機をかけよう。なんて手際がいいんだろうか。

自画自賛しなから掃除機のスイッチを入れた。

ガーガーと音を立てながらゴミを吸い込んでいく。

何の問題もない、楽勝だ。


テレビを見ている晃太郎の横を嫌味ったらしく時間をかけ掃除していると目が合った。

「あーあ、隅の方は全然かけとらんじゃないか」

我が親ながら腹が立つ!

「うるさい!自分はテレビばっかり見てるくせに!」

「普段、恵子さんが家事してるときは手伝ってるぞ」

「じゃあ今も手伝えばいいじゃないか」

「たまには家事の大変さを知るべきだ」

誰のせいでこうなってると思ってんだ。

本当に腹が立つ。早く元に戻りたい。


「なあ、解毒剤とかはないのか?」

「別に毒じゃない。治す薬は作るのに1ヶ月くらいかかるから大人しく4日過ぎるの待ってた方がいいぞ」


将太はため息をつき天井を見上げた。

晃太郎の変人さには小さい頃から慣れているつもりだった。

しかし、こんなに酷い目に合わされるとは思ってもみなかった。

晃太郎は再びワイドショーの『大物政治家、相続トラブル』という話題に夢中になってしまい、将太の話を聞きそうにない。

仕方なく、掃除を続けることにした。


2階に掃除機を運んだが、持ちにくいし、なかなか重く大変だった。

そういえば恵子が「新しい掃除機が欲しい。最近のは軽いのよ。充電式でコードレスのも多いし」と言っていた気がする。「壊れたら買えばいいよ」と答えた自分が憎い。


もう面倒になってきたため『子どもの部屋に勝手に入るのは良くない』と言い訳を決め、夫婦の寝室、廊下だけ掃除をし、1階に戻る。

掃除機をかけたはずなのだが、どこそこに埃が見えている。

おかしいな……。よし、見なかった事にしよう。


将太がリビングに戻ると晃太郎がお茶をついで渡してくれた。

「変なもんは入れとらんぞ」今の状況では笑えない冗談だ。

お茶を口にすると少しだけ気持ちが落ち着いた。

「恵子さんは家事が一段落したら煎餅もチョコもアイスもよく食べるぞ。

お前も慣れない家事で疲れてるだろうから休んで食えばいい。」


お菓子の箱を差し出してくる。

将太は煎餅をバリバリ口にした。

「恵子とよくおやつ食べるのか」

「そうだな。恵子さんの出してくれるおやつはいつも美味いぞ」

晃太郎は、だから太っちゃうんだな、という言葉をすんでの所で飲み込んだ。


親子二人、煎餅をかじる音だけが響いていた中、携帯が鳴った。

着信に『上島将太』と出て「えっ!俺?」

と思ったのだが何のことはない。

各々、見た目の持ち主の携帯を持って行動しているのだ。

つまり、三哉からの着信ー

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