第7話 喫茶店での出来事
「本当にびっくりでした。みどりくんの正体が、実は近所のコンビニ店員さんだったなんて」
「別に隠しているつもりはなかったんだよ? 気付いてもらえなかっただけで」
「いやいや、
「それは少し嬉しいかも。一番力を入れてる俺の推しキャラだからね」
「帝くんがみどりくんなのか、みどりくんが帝くんなのか混乱するレベルです」
カフェに着いてからも、お姉ちゃんとみどりさんは仲睦まじく会話している。道中で緊張がほぐれたのか、お姉ちゃんの表情も明るくなってるし。
あの男、やはりただのコスプレイヤーではない。
しかしあたしの尾行には気付けていないみたいだな。ちょっと離れたカウンター席で、雑誌で顔を隠しながら観察してるけど、二人は一度もこちらを警戒していない。
このまま様子を伺って、お姉ちゃんに対してどんな下心があるのか、なんとしても尻尾を掴まなくては。
「お姉さん、おひとりですかー?」
「ん? そうですけど、なんなんですかあなたは?」
「俺、大学の課題やりに来てるんですけど、息抜きにおしゃべりしませんか?」
しまった。店内が薄暗くて見えにくいからって、サングラスを外したのが仇になった。怪しげな風貌のままなら、声を掛けられたりしなかっただろうに。
サラッと隣の席に座った見知らぬチャラそうな男は、ノートPCとコーヒーをテーブルに置いて、唐突に話し掛けてきた。
普段ならこんなナンパは軽くあしらうのに、今はお忍びで極秘任務を遂行中。下手に目立つような事をすれば、お姉ちゃん達にバレてしまう。
もぉー、厄介な状況になったなぁ。
「雑誌読んでる最中なので迷惑です。それに息抜きとは、途中で挟むものでは?」
「さっきまでずっと別の場所でやってたんですよ〜。だから疲れちゃって」
「そうですか。では邪魔はしませんので、勝手に休んでて下さい」
「お姉さん可愛い顔して気が強いなぁ。歳近そうだし、楽しく話しましょうよ〜」
「迷惑だって言ってるじゃないですか。それに年齢関係無いですよね今」
粘着質な喋り方が気持ち悪いし、纏わりつくように人の顔見てきてホントにキモい。なんだこのキモ男。
こいつに気持ち悪く絡まれ始めてから、二人の会話がちっとも聞こえてこない。
「さっきからなに見てるんすか〜? あー、あそこのカップル?」
「………うっさい」
「うわ、彼氏は結構イケメンですね。もしかしてぇ〜、浮気現場の監視とか〜?」
「うるさいって言ってんのよ!! そんなんじゃないし!!!」
♢ ♦︎ ♢ ♦︎
静かだった店内に、突如聞き覚えのある怒鳴り声が響き渡る。少し離れたカウンター席で、なにやら男女が揉めているみたいだ………って、あれ? 立ち上がってる女子、
普段の明るい印象とは違い、黒系の落ち着いた服装だけど、やっぱりどう見ても桃花だ。
「なんか女の子が怒ってるね。もしかして
「う、うん。
「それは構わないけど……」
彼の返事の続きを聞いている余裕は無かった。
桃花はこちらを向いてなんだか気まずそうにしてるし、隣の男とトラブルになっているのは間違い無い。
私は足早に妹の下へと向かい、仲裁する為に間に割って入ろうとした。
「お姉ちゃんごめんなさい。邪魔するつもりはなかったんだけど……」
「え、お姉ちゃん!? あんまり似てない姉妹ですねぇー。てことは、妹さんはお姉さんのデート盗み見してたの? もしかして〜、シスコンってやつ?」
「えっと、全然話が見えないんだけど、二人はお知り合い? なにがあったの?」
パリピ感漂う男は、あからさまに茶化す様な喋り方をして、なんか鬱陶しいタイプだな。
「この人ただのナンパ男だよ。しつこいから半ギレになっただけ」
「あ、そうなんだ。ここで会っただけなんだね」
「だってこんな可愛い子がひとりで座ってたら、声掛けたくなるでしょ〜」
「気持ちは分かりますけど、妹は困ってるみたいなので、向こうに連れて行きます」
内心ドキドキし過ぎて心臓止まるかと思ったけど、桃花だけは傷付けられたくない。その一心で手を引いて、若苗さんの待つテーブル席に戻った。
さっきまで笑顔だった彼は唖然としているし、我ながら行動が大胆だったな。急に冷や汗まで滲み出してくる。
「危なくならないか見てたけど、意外と強気な一面もあるんだね、安栗さん」
「いや、あの、いつもはこんなこと絶対出来ないんだけど、なんか行かなきゃと思って」
「妹さんだったんだもんね。はじめまして。お姉さんと最近友達になった、
「あ、はじめまして! 安栗桃花です! 姉がお世話になってます!」
「……えっ!? 若苗さんって、柚葉ってお名前なんですか!? てっきりレイヤーネームの『みどり』が下の名前だと思ってた……」
「あー、俺の名前は緑系の色の名前だから、みどりって名前にしただけだよ」
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