第4話 一歩前進した
「なるほどな。趣味が合う人間が多そうな文学部を選んだのに、想像以上にキラキラした人種が多くて、気付いたら馴染めずに孤立してしまったと……」
冷たそうな見た目なのに、嫌な顔ひとつせず、耳を傾けてくれる彼はとても話しやすくて、愚痴みたいな身の上話を延々と垂れ流してしまった。
大学生になってからの事情をほぼ説明し尽くしたところで、急に我に返って恥ずかしくなってくる。
「ご、ごめんね! 突然こんなつまらない話されても、迷惑だったよね」
「いや別に。俺大学行ってないし、友達も多くないから、こういう話題嫌いじゃないよ」
「でも情けないよね。来年は新成人になる歳なのに、不登校の引きこもりなんて……」
「誰だって上手くいかない時はある。ましてや環境が変わったタイミングじゃ、自分だけでは改善が難しかったりするからな。今のあんたに必要なのは、良き理解者じゃないか?」
予想外に親身に考えてくれていて、途端に胸が熱くなってきた。
去年の後期に休学していた事は、事後報告で親にも伝えたけど、今年度も通っていない状況は伝えられないまま。いつまでこんな罪悪感を抱えていくんだろうと思っていた矢先に、初めて打ち明けた身内以外の人からの言葉は、あまりにも優しかった。
私は外プリのヒロインとは違い、努力も足りないし根性も無い。ましてや外見だって、魅力的とは到底言えないのに、どうしてこんなに親切なんだろう。
「ありがとう、みどりくん。わかってもらえて、すごく嬉しい……」
「おい、こんなことで泣くなよ。ハンカチなんて持ってねーぞ?」
「だいじょうぶ……。袖で拭く……」
軽い溜め息を吐いた彼は、私が落ち着くまで黙って隣にいてくれた。
ようやく涙が収まり、ふと右側に視線を移すと、彼の左手がスマホを準備して待ち構えている。
「愚痴でも趣味の話でも、気が向いたら連絡してくればいい。俺は基本的にバイトとコスプレしかしてないからな」
「え、連絡先まで教えてくれるの?」
「ここまで巻き込まれて放り出せるかよ。知りたくないなら別にいいけど」
「知りたい! むしろ教えて下さい!!」
交換したメッセージアプリの彼のアイコンは、コスプレ姿の彼ではなく、原作の帝くんの画像だった。アカウント名は若苗になってるけど、アイコンだけで彼だと判別出来る。
それにしても、男の子なのに少女漫画の絵をこういうところで使えるって、本当に外プリが好きなんだなぁ。
♦︎ ♢ ♦︎ ♢
「ユウメ………か。苗字も下の名前も珍しいし、やっぱ人違いの線も無いなぁ」
二回も声を掛けてきた彼女を、俺は一年近く前から知っている。正確には、顔を以前から認知していただけであり、名前を知ったのは割と最近だ。最近と言っても、もちろん今日ではない。今日こちらから名乗ったのは元々そうする予定だったし、彼女の名前を確認する手段でもある。
聞いた名前は完全に一致していて、同学年だったところからも、探していたその人で確定だ。
それにしても、こんなに上手くいくとは思わなかった。
いつ出会えるかも分からなかったから、一ヶ月半近くイベント後にコスのまま帰るという、なかなかの羞恥プレイを経験した。奇抜な衣装ではないキャラだから、そんなに悪目立ちもしなかったと願いたいけど、結構気恥ずかしい。
それでも立て続けに呼び止めてもらえて、今はホッとしている。
初見の時にもう少し親しくなるのもありだったけど、あの日は本当にバイト前で時間が無かったからな。
「向こうから連絡来るかも微妙だし、こっちから先手を打って距離を近付けてみるかな。このアカウント名
彼女はたった二回しか顔を合わせていない俺に、自分の弱い部分をあっけらかんと打ち明けていた。きっと誰かに吐き出したくても、溜め込んで我慢する道を選んで、自分の心を守っていたのだろう。
その点、彼女がよく知っていて、大好きなキャラクターになりきって接した俺は、彼女の絡まった心の紐を緩めたのかもしれない。そこまで考えるのは自分に酔い過ぎか。
「さっきは色々話せて楽しかったです。素の状態で良ければ、今度はのんびりお茶でもしながら、たくさん外プリ談義しましょう!………っと」
ベッドに仰向けに転がりながら、スマホで
今はまだ長々と言葉を綴るよりも、友人としての良い関係を築くことが優先だ。
返信は数分で届き、その奇怪な内容に思わず吹き出してしまう。
『え、本当にみどりくんですか!? 直接話していた時と印象が違い過ぎて、すごく驚いています。こちらこそ、とても楽しい時間をありがとうございました。ぜひ、今度は涼しい所でゆっくりお話ししたいです! 間違えてたらすみません、ご本人ですよね!?』
文面の前後に相手の確認を入れるって、どんだけ疑心暗鬼になってるんだよこの人。
「『コスプレ中は役作りだって。普段はこんな感じだよ。』この二言で伝わるだろう」
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