第3話 物思いに耽る窓辺
去って行くコスプレ王子様の背中を見つめながら、ふと疑問が湧いてくる。めっちゃ馴れ馴れしく話しちゃったけど、彼はいくつだったんだろう。
正直なところ歳の事なんかどうでもよくて、名前も連絡先も聞けなかったのが寂しかった。会ったばかりで図々しいからと思ったけれど、また会えるかどうかも分からない人。少しだけ見えた私の現実世界の彩りは、またすぐにモノクロに戻されてしまうのだろうか。やっぱり聞けばよかった……。
♦︎ ♢ ♦︎ ♢
うじうじしながら、あっという間に五日が過ぎてしまった。
帝くんに出逢ってからというもの、私はいつも窓の外を眺めながら黄昏ている。
話しをした公園は我が家からそれほど離れておらず、目を凝らせば微かにベンチの位置まで確認出来る。
だからどうというわけではなくて、単にまたあの近辺を彼が通らないかなぁと、淡い期待をしているだけだ。
「はぁ……なにやってんだろ私。あの日も夕方近かったし、それまで片付けでもしてよう」
私に特別な時間をくれた彼に、もう一度でいいから会いたい。日を追うごとにその思いは強くなって、今や外プリの漫画を開けば声まで再生される。連載四年目にして、ようやくアニメ化の情報が浮上したばかりなのに。声優さんの声を聞いたら、逆に違和感を覚えてしまいそうだなぁ。
そんな事を考えながら、そこまで散らかっていない部屋を二時間くらい掛けて綺麗にした。
十六時を回り、もうそろそろかなと再び窓枠に腕を乗せて、外をぼーっと眺めてみる。
「そんなに都合良く見つけられるわけないか……」
ポロッと漏れた諦めのセリフを噛み締めつつ、公園付近から徐々に目線を近場に移す。
彼に出逢った広めの通りを、真っ直ぐこのアパートまで辿るように見ていると、灯台下暗し状態だった。ここから百メートルも離れていない所に、見覚えのある人影が歩いている。
「うわっ!! ホントにいた! 帝くんだ!!」
下着も着けず、完全に部屋着姿だった私は、彼を見失わないようにと焦っていた。とりあえずクローゼットから前開きのパーカーを取り出し、羽織ってファスナーを閉める。ズボンを履き替えている時間は無いし、慌ててスウェットの短パンのまま部屋を飛び出した。
「みっ、帝くん!!」
「ん? あぁ、あんたか。どうした? 息が切れてるし、随分とラフな格好だな」
「ま、また会いたいと思ってて、その、家から偶然見掛けて、急いで走ってきて……」
見失いたくない一心で、何も考えずに声を掛けてしまったから、絞り出してもたどたどしい言葉しか出てこない。正面にいる彼も口を半開きにして見てるし、さすがに気持ち悪い奴だと思われちゃったかな。
しかし次の瞬間、彼は横を向いてクスクスと笑い始めた。
「え? ど、どうしたの??」
「悪い、なんか必死だったんだなと思ってさ。面白いなあんた」
「だって連絡先も知らないし、もう会えないかもしれなかったから……」
「そりゃ運が良かったな。次のイベントまで二週間ぐらい先だし、それまでこのコスもする予定無かったんだよ」
「じゃあ今日見つけてなかったら、二週間後までその姿も見られなかったんだ」
「そんなに日が経っても声掛けられたら、もう偶然じゃなくて張り込みでも疑うよな」
不敵な笑みと共に出てきた発言が、私の胸にグサりと刺さる。何を隠そう、この五日間も自宅で張り込んでいたようなものなんだから。絶対にこちらからは言えないけど、言い方的に薄々勘付かれてるかも。
「とりあえずこの前の公園でも行かないか? その服じゃ喫茶店も入れないだろ」
「あ……、うん。時間とか平気?」
「今日はこの後の予定も無い。さっきまでイベントで立ちっぱだったし、座れるなら早く座りたい気分」
着替えてなかった自分を呪いたくなったけど、周囲に他人がいる環境じゃ、どっちにしろ落ち着いて話せなくなる。
西日の差す方向に向かって並んで歩き、前回と同じベンチに腰を下ろした。
静かな自然の風景に浸っていると、二本のジュースを両手に持った帝くんが戻ってくる。
「炭酸とそうでない方、どっちがいい?」
「えっと……じゃあ炭酸じゃない方」
奢りだと言ってジュースを手渡した彼は、隣にゆっくり腰を下ろすと、飲みながら話し出した。
「俺は
突然つらつらと並べられたセリフに、私は数秒間固まってしまう。
これ自己紹介じゃん! え、歳一緒か一個上!?
若苗……さん? みどりくん?
あまりにもいきなりで、反応に困る……
「わ、私は
「じゃあ同い年だな。本来ならってことは、留年でもしたのか?」
「う、うん……。休学とかもしてて、実質通ったのは一ヶ月くらい」
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