第8話 決闘

 大きな声の正体は男一人女二人の三人組の冒険者の一人だった。どうやら受付に文句を言っているようだ。

 先程の声で分かるように奴は毒風のラムザの事で怒っているようだが、アンナさんは関わりたく無いのかスルーを決め込んでいる。

 誰だって、仕事の失敗を八つ当たりするような奴には近づきたくないからな。


 一階に降りた俺はアンナさんと合流し、奴らを無視してマリーのいる受付に向かう。こっちに矛先が向きませんように。


「マリー」

「あら、スタークさん。ギルドマスターとのお話は終わったんですね。報償金と登録の手続きはもう終わってますよ。こちらが冒険者カードです。」


 マリーから受けた説明では、冒険者カードの再発行は登録したギルドか直近で更新したギルドでのみ可能で、更に銀貨一枚が必要らしい。

 また、ランクによってカードのコーディングに使われる素材が異なり、ランクと比例して高い素材が使われるわうになる。ちなみにCランクは銀だった。


「そしてこちらが毒風のラムザ討伐の報償金の金貨五十枚です。」


 あ……、あーぁ、すげー目でこっち見てるよ。怒っているのはリーダーの男一人だけだがトラブル確定だな。さっきの祈りは神には届かなかったらしい。マリーもやらかした!みたいな表情をしている。既にこっちに向かって歩き出してるしな。


 俺はアイテムボックスに金貨を仕舞うと、おい!と横から声を掛けられた。面倒くさいな、サーニャさん怒るんじゃねぇか?


「おい!聞いてるのか!」


 辺境伯や母さんからも散々言われたんだけどなぁ。でも、俺悪くないよな?不幸な事故でゴリ押すか?それともボコボコに殴って黙らせようかな。

 騒ぎを大きくしてサーニャさん呼ぶか。


「おい!聞こえてんだろ!無視してんじゃねぇ!」

「うるせぇな、こんなに近くに居たんじゃ嫌でも聞こえるわ。一々怒鳴るんじゃねぇよ」

「話が聞こえたんだ!毒風のラムザを倒したのはお前らだな!あの盗賊達は俺らの獲物だったんだ!追い詰めた所で横取りしやがって!」

「自分らの失態を俺のせいにするんじゃねえ。追い詰めた所で油断して逃したんだろ?自業自得じゃねえか」

「なんだと!」

「何を騒いでいる!?二階にも怒鳴り声が聞こえたぞ!」


 騒ぎを聞いたサーニャさんが降りてきた。そして俺を見て呆れた様子でため息を吐いた。


「さっそくトラブルか?スターク」

「ちげーよ。こいつに絡まれたんだ。俺は被害者」


 俺が原因だと思ってるサーニャさんに事情を説明する。

 そもそも俺はこいつらがどこの誰かも分からない事も。


「説明を聞く限りスタークは悪くないな。疑ってすまなかった」

「気にしてねぇよ。それよりこいつ何とかしてくれ」


 俺に絡んできた青年は分が悪いのを悟ったのかその表情は苦々しい。それでも怒りを抑えられないらしい。

 何なんだこいつは。


「ルーク、君のしてる事はただの八つ当たりだ。それにBランクの君たちでは、元Aランクのラムザの相手はかなり危険だった筈だ」

「なんでですか!こんな奴に倒される奴なら、Bランクまで順調に来た俺達でも倒せる!」

「あのなぁ……」

「おい!お前!俺と決闘だ、俺が勝ったら報償金を渡せ」

「おい、ルーク。それは横暴が過ぎるぞ」

「もういいぜ、サーニャさん。こいつぶっ飛ばして良いんだろ?受けるぜ、決闘」


 俺は売られた喧嘩は買う主義だ。筋の通ってない話をデカい声で延々と話されるのはもう我慢できん。これは俺じゃなくともブチギレ案件の筈だ。



 ギルドの地下は開けた空間になっており登録、昇級試験や冒険者達の訓練を行う場所で緊急時には臨時の避難所になるらしい。

 移動中にサーニャさんからなるべく後遺症を残さないようにして欲しいと頼まれた。あんな奴でもギルドが期待しているらしい。いや、してか?骨折くらいは大目に見てほしいもんだ。


 俺と対峙しているルーク?は物凄い形相で俺を睨み付けている。もう引くに引けなくなってんじゃね?なんか可哀想に思えてきたな。


 審判はサーニャさんがやってくれるみたいだ。決闘と言っても殺し合いをするわけじゃなく、どちらかが負けを認めたら終わりらしい。

 それに一階にいた他の冒険者たちも移動してきてギャラリーと化して、賭けまで始めるの始末だ。


 改めてルークを観察するが、大して強くなさそうだ。あれでどうやってラムザを倒すというのか、逆に殺されるのがオチだ。


 ルークは片刃の長剣を両手で構え、俺は穿牙せんがを抜き自然体で立つ。


「二人とも準備はいいか?始め!!」


 開始と共に速攻で終わらせるのも考えたが、実力の差を見せつけることにした。

 俺が相手の攻撃を待っていると、ルークは俺を見て鼻で笑った。


「ふん、ただ突っ立ってる事しかできないか!ならこちらから行くぞ!」

「何言ってんだ、弱者に先手を譲るのは当たり前だろう?」

「なめやがって!!」


 怒りを露わにルークは飛び出してきた。俺からすれば隙だらけの鈍い振り下ろしを、剣の背に左手を回し掴み止める。


「なっ!」


 一瞬で相手の剣から手を離しそのまま穿牙を横薙ぎに振るいルークを吹き飛ばす。


「本当に大した事ねぇな。準備運動にもならないぞ」

「ぐうぅ、まだこれからだ!」


 受け身は間に合ったらしいが、自分と似たような体格の俺に吹き飛ばされたことに驚いているようだな。

 持ち直したルークは再び俺に向かって走り出した。今度は身体強化を使っているようだ。


 先程よりも鋭さと威力の増した、ルークのフェイントを混ぜた連撃を全て受け止め、相手が反応できる速度で下から斬り上げる。これを紙一重で避けたルークは俺の腹目掛けて突きを繰り出した。


 俺はそれをバックステップで躱し、全力で踏み込んでルークの剣に穿牙の腹をぶち当てる。

 相手からしてみたら、肘から先が吹き飛んだように感じるほどの衝撃だろう。手首なんかは折れてるかも知れないな。


 得物が無くなり隙だらけなルークの首に剣先を突き付ける。これで終わりだな。


「そこまでっ!!」


 案の定、サーニャさんの終わりを告げる声が響き渡った。

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