第6話 辺境伯
辺境伯の屋敷は街の北西にある丘の上に建っていた。見た目は屋敷というよりも少し小さい要塞と言った方が正しい感じた。
これまた頑丈そうな門を潜ると一人の老執事が笑顔で待ち構えていた。
「案内お疲れ様です、アンナ。はじめまして、スターク様。私はシュッツヘルン家で執事長をしております、ロバートで御座います。ロバートとお呼び下さい。敬語も必要ないですよ。現在、アレス様は仕事が長引いておりますので、先に屋敷を案内しましょう。アンナは先にアレス様に報告を。ここからは私が屋敷をご案内致します。」
「ありがとうございます、ロバートさん。ではスターク様、また」
「ここまでありがとう、アンナさん。帰りに声を掛けるよ。」
「それでは参りましょう。まずは騎士たちの修練場に向かいましょう。かなり広く見応えがあるはずですよ」
アンナさんとロバートは親しいようだ、お世話になってる感じかな。
アンナさんと別れ、熟練の老兵のような雰囲気を纏うその執事について行き、敷地を案内される。
修練場に近づくにつれ衝撃音や悲鳴が聞こえてくる。一体どんな訓練をしてるんだ。
「普段からこんな激しい修練をしてるのか?」
「いえ、そんなことは御座いません。大きな怪我を負っても困りますしね。……まさかとは思いますが。」
「?」
ロバートは何か心当たりがあるらしいが、大人しくついて行くか。……早歩きになってるな。
「ワッハッハ! そうら、まだまだぁ!」
修練場には俺よりも体格の良い老人が槍を持ち、暴れてると言った方が正しい程の模擬戦を多数の騎士を相手に繰り広げていた。
「まさか、あの人が辺境伯か? 豪快な人のようだな。派手に暴れてる」
「ああ、あの方がシュッツヘルン辺境伯アレス様です。かつては英雄とも呼ばれた御方なのですが、どうやら執務室を抜け出して来たようです。アンナを向かわせたというのに……」
全く元気なじいさんだ。年齢を考えれば八十近い筈なのに、鋭い風切り音と共に槍を振り回している。
この世界の生き物は魔力の質や
つまり強ければ強いほど長生き出来るってわけだ。それでも長命の種族よりは短命だ。
人類の中でも長命で数の少ないエルフ、ドワーフ、デーモンは魔力の質の高さもそうだが、身体の組織がより長生き出来るよう変化している種なのだろう。数が増えにくいからこその進化と言えるのかな。
そんな事を考えているとロバートが辺境伯に近づいて行く。
「こんな所で何をしているのですか、アレス様。今日はスターク様がいらっしゃるとお伝えしたでしょう。それにアンナを先に報告に行かせたというのに執務室を抜け出して遊んでいるとは。だいたいあなたは……」
「い、いや遊んでた訳ではないのだが」
説教が始まったな。
騎士達は普段から慣れているようで慌てた様子は無く、苦笑いや引き攣った笑みをしている。二人は気の置ける友人だろうか。
どうしたものかな。
「お二人とも何をしておられるのですか。スターク君が困っていますよ。」
仕事を終えたランスロットがアンナさんを連れ、やって来た。
救世主だ!あの気まずさは耐えられん。
「おぉ!其方がエレナの息子か!前に会ったのは赤ん坊の時だったな、大きくなったものだ!」
「これは申し訳ありません、スターク様。アレス様、客間に移動した方がよろしいかと」
「そうだな、立ち話も何だし移動するか!」
嵐のような人だな。一緒に居て退屈することは無さそうだ。
ロバートに連れられ俺達四人は客間に移動した。
「それにしても本当に大きくなったな。あの二人は元気か?手紙のやり取りはあるが、顔を見せに来ることが無かったからの。それでこれからは冒険者として暮らすのか?」
「暫くはこの街でランクを上げようと思ってるよ。街も見て回りたいから」
「そうかそうか。悪名高い毒風を余裕で倒す実力があればランクを上げるのはそんなに掛からないだろう。どのみち試験は必要だと思うが推薦状を書こうか?推薦状があれば最高でCランクから始められるぞ」
「そりゃ、ありがたい。お願いするよ、アレス爺さん」
俺は辺境伯から畏まる必要はないと言われ、「アレス爺さん」呼びを強制された。
小っ恥ずかしいが期待を込めた目を見て折れざるを得なかった。
孫やひ孫といる時はただの好々爺だな。俺よりデカい体格をしてるが。
話を終えた俺は推薦状を受け取り、アンナさんと一緒に冒険者ギルドに向かう。
アンナさんにはお世話になりっぱなしなので、なにかお礼を考えないといけないな。
冒険者ギルドは街の南東、南門から近い位置に存在していた。
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