第5話 到着

 ラムザは魔力を限界まで高め、全身に力を入れて俺に向かって飛び出した。

 その手に握られた大剣は毒の刃を纏い一回り大きくなっており、おまけに毒霧付き。

 それに応じて間合いも伸びている。身体強化も魔力を無理矢理上げたのか、今までとは比じゃない速度を出している。


 俺もラムザに応え、身体強化を限界まで使い、一番得意な火の魔法で蒼い炎を崩牙に纏わせその場で迎え撃つ。


 ラムザの上段からの渾身の一撃を、俺もまた上段から崩牙を振り下ろす。

 蒼炎を纏った崩牙はラムザの毒を一瞬で燼滅させ、大剣ごとラムザを深々と切り裂いた。

 俺はその場から少しずれ、脱力したまま慣性に従って倒れ込むラムザを避ける。


「……ごふっ。あぁ、楽しかった。礼を言うぜ、スターク……。」


 こいつが盗賊じゃなければまた違った出会いがあったのかも知れない。そう思わせる程の実力を持っていた。


「お疲れ様です。さすが、スターク様ですね。名前を聞いて思い出しましたが、毒風のラムザといえば元A級冒険者ですよ。ですが、反対の辺境伯領東側に拠点を持っていたはずです。なにを理由に移動して来たのか気になりますね。」

「あぁ、戦い自体は楽しめたよ。こいつの過去関係無くね。移動して来た理由は街で聞いてみよう。」

「そうしましょう。今から向かえば昼過ぎには到着できるはずです。それと盗賊達の持っていた物は持ち主が判別出来る物を除き全て討伐者の物になります。」


 なんと、思わぬところでいい収穫があったもんだ。

 アンナさんは騎士なので先程の話の対象外だと言い、全て譲ってくれた。どうせなら俺のお金にしてくれと。

 お金に困ってないとはいえなんていい人なんだ。俺が両親から貰った路銀しか持ってないからか?


 色々と探したが、めぼしい物はラムザが持っていた指輪型のアイテムボックスとあの五人の武器、あとは盗賊が溜め込んでいた金のみ。

 ラムザの大剣は真っ二つにしてしまったし、他の盗賊が使っていた武器はかなり消耗していて金にならない。

 街に着く前に小金持ちになったな。


 指輪アイテムボックスを左手の中指にはめ崩牙と回収した他の武器、金をしまう。

 アンナさんに、武器を持っていると分かるようにした方が良いと言われ穿牙は腰に差したままだ。


 盗賊達の首をアンナさんのアイテムボックスで回収し、死体を深く埋めてから辺境伯領フォルトへ向け再び歩き出した。




 あれから森を出て街道を歩き続けてようやくフォルトに着いた。街は頑強な壁で囲まれている。


「随分立派な外壁と門だな。それに騎士や兵士の数も多い。」

「フォルトはリベルタ王国南側の入り口ですからね。辺境伯に仕えている騎士も多いですし、王都からも多くの騎士と兵士が派遣されています。特に南門は居住スペースも完備されてるので。」

「並んでいる人も凄い人数だ、あれに並ぶのは気が滅入るな。」

「いえ、今回は並びません。アレス様へのご挨拶も必要ですから簡単な手続きだけ行います。盗賊達の首を預けて、冒険者ギルドへ持って行ってもらいましょう。我々は先にアレス様の下へ。」

「そりゃ楽でいい。」


 あれに並ぶのは勘弁して欲しかったのでありがたい。特別扱いし過ぎな気もするが、出自を考えるとおかしくは無いか。

 ちなみにフォルトに店を持つ商人や商会と依頼を受けた冒険者、一般人はそれぞれ別に並ぶらしい。


 そして、アンナさんに先導され門に設置されている扉から外壁の中に入る。なんでかは知らないがかなり見られた。見た目に変な所でもあったか?


 中は要塞内部といった感じで部屋の数が多い。扉から一番近い部屋に案内されると、中には一人の騎士がいた。


「やぁ、はじめまして。私はランスロット。アレス様に仕える騎士隊の副隊長を務めている。一応は、アンナの上司になるね。堅苦しいのは好きじゃなさそうだからね。君も素で構わないだろう?」

「あぁ、助かる。俺はスターク。許可は取れてるらしいが普段はモントリヒトを名乗らないようにしようと思ってるからただのスタークだ。」

「そうなんだね。ところで到着が遅れたようだけど何かあったのかい?」

「それについては私が。」


 アンナさんが道中の説明をしている間にランスロットを少し観察する。

 見た目は茶髪の優男だが、立ち姿に隙がない。壁に掛けてあるランスロットの物と思われる槍もかなりの業物だな。副隊長なだけあってかなり強そうだ。いつか可能なら戦ってみたいものだ。


「なるほど。事情は分かった。アンナは言っていた通りに首を渡してくるといい。その間に私が手続きを済ませよう。」

「ありがとうございます、副隊長。お願いします。スターク様、すぐ戻ってきますね。」


 そう言ってアンナさんは部屋を出て行った。


「手続きって俺は何をすればいいんだ?」

「簡単さ、この玉に手を乗せるだけ。その他の事はこちら側の処理さ。」


 そんなんでいいのか、と思いつつ手を乗せる。すると玉は白く発光した。俺が驚き目を見開くと、ランスロットは何かを察したようだ。


「森に住んでたなら知らなくて当然だね。これは魔道具でね。手を乗せた人物の過去を判別して、対応した色に光るんだ。問題なければ白、犯罪者は赤、前科がある者は黄色といった具合にね。君は白だから何も問題はないよ。」

「へぇ、そりゃ凄え。魔道具って事は誰かが作ったんだろ? とんでもねぇ技術だな。仕組みなんかさっぱりだ。」

「建国時代の王の側近である賢者が作り出したと言われているね。最高峰の魔法技術を持っていたとされてる人物だよ。」

「建国時代ねぇ……。」


 その後も二人で話していると、アンナさんが戻ってきた。


「お待たせしました。毒風のラムザの事で少し話が長引きました。」

「こちらは終わっているよ。アンナ、少し良いかな?」


 仕事の話か何かか? 聞かない方がいいだろうな。必要があればアンナさんがあとで聞かせてくれるだろう。


——


「彼の覇気と言うかオーラと言うか。あれは無意識なのかい?」

「どうやら無意識のようです。私はもう慣れてしまったので忘れていましたが。」

「そうか……。最初見た時は驚いたよ。見た目はヒューマンの青年だが、しっかりと龍の血を継いでるということかな。あれが無意識だとかなり目立つだろうな。それとなく伝えてみてくれ。」


——


 話が終わったアンナさんは申し訳なさそうにしていたが、別に気にしてないのにな。

 ランスロットと別れ、辺境伯の屋敷に向かった。

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