第4話 毒風

 俺が相手にしている盗賊たちの連携も見事で、巨漢が放つ《身体強化》を使った戦斧での攻撃の避けるとその隙を突いて風の魔法を利用した刺突剣でのするどい攻撃が迫るのだ。普通なら防戦一方だろう。

 奴等はこの一連のパターンを十八番としているようで、俺が色々と試しているとすぐに対応してくる。


「くそがっ! ちょこまかと避けやがって!」

「ヒヒッ。焦るなよ、回避しか能がない奴だ。体力が無くなればこっちのもんだ!」


 俺が相手の力量を測ろうとしていることには気付かずに勝手な勘違いをしているな。

 アンナさんも少し苦戦しているし、盗賊の頭が未だに動かないのが気味が悪いので、サクッと倒してしまおう。


 戦斧の上段からの攻撃に合わせて《身体強化》をして穿牙の腹を柄目掛けて下から振るい、かち上げる。熊のビーストは両腕を弾かれ、無防備な胴体を晒している。


「なっ!」

「マジかよっ!」


 力負けするとは思っていなかったのか二人は驚き、一瞬動きを止めてしまっていた。


 その隙を、下から振り上げた反動を利用し回転、穿牙の切れ味のおかげで骨や筋肉に邪魔される事なく右鎖骨から袈裟斬りにし、文字通りに命を断ち切る。


 一拍置いて、体勢を整えてから全力で踏み込み、少し離れた位置にいた細身の男に迫る。

 細身の男は迎撃の準備を終えていたが、俺の速さに面食らっており、放ってきた突きに勢いと鋭さはない。穿牙の腹に右手を添えて刺突を受け流し、踏み込みの勢いと体重を乗せてこちらも突きを放つ。

 剣をそらされ伸び切った体勢の細身の男に抵抗の術は無く心臓を貫き、その生命活動を止める。


 アンナさんの方も俺の戦いに気を取られた三人の内二人を既に倒しており、今最後の一人にとどめを刺す所だった。


 アンナさんがとどめを刺し終えた後、盗賊の頭がこちらに向かって歩いて来た。


「元Bランク冒険者だから仲間にしたが、まるで使えねぇな。同ランクの中でも実力は上位とか言ってたくせによ。まぁ、てめぇらが予想より強かったのもあるか……。」

「後はお前一人だ。一緒に戦えば良かったものを。おとなしく捕まる気なんてないんだろ?」

「ハッ! よくわかってんじゃねぇか。あいつらが居たんじゃ全力が出せなかったんだよ。俺の戦いに巻き込まれて死ぬからな。」


 不意打ち直後は怒りでいっぱいだったようだが、今はだいぶ冷静になったみたいだな。

 それに、前髪に隠れて見えなかったが盗賊の頭は赤い眼をしていた。赤い眼は興奮時のデーモンの特徴であり、体から漏れ出した魔力はかなりの質が高い。


 念のためアンナさんを下がらせ、俺が前に出る。俺が強敵と戦いたいのもあるが。俺の方が強い事を分かっているアンナさんは素直に引き下がってくれた。


「やっぱり、てめぇか。あいつらを倒した時の身体強化もかなり出力が出てたし、その女よりも強えんだろ? ハハ、楽しみだな。俺はラムザ。毒風のラムザだ。」

「盗賊が一丁前に名乗りか。いいぜ、俺はスターク。さぁ、やろうぜ。」


 ラムザはニヤリと笑うと右手に付けている指輪に魔力を流した。すると光と共に大剣が現れラムザの右手に握られた。身体強化をしてこちらに斬り掛かって来た。


 なるほど。あれも収納魔道具アイテムボックスか。便利だな、羨ましい。

 俺は穿牙を鞘に戻し、右手で崩牙を抜き放ち、迎撃するために構える。


 崩牙とラムザの大剣がぶつかり合い、かなりの衝撃を生み火花を散らす。鍔迫り合いの中俺は脱力と重心を動かすことで相手の体勢を崩そうと試みるが、ラムザはそれを見抜き少し後退し左手をこちらに突き出した。

 俺はすぐにスキルの《龍の瞳》を発動する。


 《龍の瞳》は魔力が見えるようになり、動体視力やその他諸々を向上させるスキルだ。

 魔力が見えると対象の体内魔力の状態などが見えるため、魔法のタイミングやある程度の種類が分かるため戦いにおいてかなり有用なのだ。また、瞳孔が龍のような縦長へと変化する。


 ラムザが使おうとしている魔法は風と他の魔法の複合だった。今から回避は出来ないため、俺は火の魔法を発動し瞬時に魔力操作で崩牙に炎を纏わせる。

 そしてラムザの手から魔法が放たれ、俺が相殺のために崩牙を振るうと小規模の爆発が起きた。


「ちっ、可燃性の毒霧かよ。俺じゃなかったら重症だぜ? 毒風の名は伊達じゃねぇな。」

「ハハッ、この毒霧は様々な毒を混ぜてるからな。それよりも、まともに食らっていたように見えたが? 何故無事なんだ。」

「俺は他人ひとよりも頑丈でね。あの程度じゃ俺に傷は負わせられないぜ。」

「そうかいそうかい。久しぶりに本気で楽しめそうだ。」




 あれから俺達は一進一退の攻防を30分程続けていた。と言っても俺は全力を出しているわけではない。もちろん手を抜いているのではなく、使う手札を制限しているのだ。アンナさんを巻き込んでしまう可能性もあるし、無駄な力は使う必要が無い。


「はぁはぁ……。随分と余裕そうじゃねぇか。まだ何か隠しているようだし、ここまで強い奴は初めてだ。」

「これ以上は何もなさそうだし、そろそろ終わりにしてやるよ。」

「ハッ! ガキのくせに生意気言いやがる。最後にとっておきをみせてやるよっ!」


 肩で息をしているラムザはそういうと魔力を高めて次の一撃の準備をしている。文字通り、捨て身の攻撃になるだろうな。

 

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