第3話 旅立ち

 今日はこの森を出る日だ。昨日はなかなか寝付けなかったので、朝起きるのが少し辛かった。


 今更だが俺の旅は簡単に許可された。それはもう拍子抜けするほどあっさりと。昨日、俺から言い出さなければ両親から旅をさせようと思っていたと言われたのだ。唯一の心配はスキルの制御で他に心配はしていないらしい。


 朝食を済ませた俺は旅の装いに着替え、必要な荷物をまとめる。崩牙を背負い、穿牙を腰に差す。朝食時にもらった路銀も確認して準備はこれで完了だ。

 こういう時に収納系魔道具アイテムボックスがあれば便利なんだがな。冒険者になったら探してみよう。


 俺が準備をしている間にアンナさんは到着していた。すぐに出発になるので申し訳ないが、その程度で疲れる程柔ではないとのことだ。


「いよいよ、出発だね。外の世界を存分に楽しむといいよ。」

「なんだか、スタークが産まれたのがついこの間のような気がするわ。体には気をつけて、戦闘ではやりすぎないようにするのよ。そへとアンナに迷惑かけないようにね。それとお祖父様によろしくね。」

「ああ、行ってくる。母さんは俺の事何だと思ってるんだ! 親父も母さんも元気でな。気が向いたら帰ってくるからよ。」

「皆さん、案内は任せてください。それでは参りましょう。」




 出発から二時間程掛けて森の外縁部までやって来た。

 この森に生息してる少数の魔物は小さな頃から狩りをしている俺の気配を覚えているので近寄って来ないこともあり、かなり良いペースだ。

 外縁部と言ってもまだ森から出るにはもう二時間程掛かるが。


 道中、色々な話をアンナさんに聞いた。その中でも驚きだったのは、六大神教の神々が存在するという話だ。神々は気に入った個人に加護を与えているとのことで、スキルのこともあり信仰が広がったようだ。

 魔法や魔力、スキルのことを考えれば神が実在することに不思議は無いと思える。


 そんな事を考えていると森の外から一時間程の距離にある洞窟にかなりの人数の気配を察知する。


「なぁ、アンナさん。この先の少し逸れた所にある洞窟にたくさんの気配を感じる。冒険者か何かか?」

「本当ですか? 私には分かりませんが……。来る前に冒険者ギルドで確認しましたが、この深さでの依頼はありませんでした。常設依頼はもっと浅い所ですし、仮にここまで来たとしても大人数の説明がつきません。」

「ふむ……。どうします? 念のため確認しに行きますか?」

「そうですね。何があるか分かりませんからしっかりと警戒しましょう。」


 気配を消して洞窟に近づくと、入り口に見張りと思われるヒューマンが二人居り、その横には多くの荷物を載せた荷車が止まっていた。


「どうやら盗賊のようです。荷車を見るに元いた場所から移動して来て、着いたばかりでしょう。」

「どうするかはアンナさんに任せるよ。」

「奴等は魔物と同じようなものですので基本討伐します。それに、ここに着いたばかりのようですし、おそらく外に出ている者はいないでしょう。盗賊とは言っても人を殺すことになりますが大丈夫ですか?」

「大丈夫。人型の魔物も討伐したことがあるし、何事にも初めてがある。」

「では見張りを先に倒しましょう。私は右を。いざと言う時は私がフォローします。」


 街に着く前に盗賊を討伐する事になるとは思わなかったが、これも経験だ。記憶にある前世では考えられない事だが、この世界の命は軽い。そして、その要因の魔物や盗賊は討伐が当たり前、慣れるしかない。


 龍という上位者の血が流れているためか生き物を殺すことに忌避感はない。加えて、盗賊は賞金が掛かっている事が多いので冒険者は首を落とす事が基本らしい。

 だからといって罪の無い人々を虐殺するような趣味は持ち合わせていないので安心して欲しい。……誰に言ってんだ。



 俺とアンナさんは合図を交わし、見張りに向かって同時に飛び出す。見張りは高速で接近する俺たちに驚くだけで対応はできていない。無防備な見張り達の首を刎ねる。


「流石の腕前ですね。首は私のアイテムボックスにあとで入れましょう。気分は大丈夫ですか?」

「特に何とも無いよ。早く中に入ろう。」


 首を回収するのは後回しらしい。まあ、当たり前か。回収中に襲われるかもしれないからな。


 中は入り口から罠も何も無い一本道で開けた空間に繋がっており、そこに20人程の盗賊が拠点を作っている最中だった。


「どうやら我々の少し前に着いたようですね。それにしてもこの広い空間で戦うのは危険ですね。飛び出せばあっという間に囲まれてしまいます。」

「なら俺が風の魔法で削ろうか? 崩落の危険があるから高威力の魔法は撃てないし、実力の高い奴に察知される溜めのある魔法は使えないだろうが、無防備な雑魚なら戦闘不能することができる。」

「そうですね。お願いします。」


 了解。と返事をして《ウインドバースト》を撃つ。この魔法は溜めも必要ないうえに、風で切り刻み強風で吹き飛ばすというなかなかの威力があるので便利な魔法だ。

 魔法を撃ち、それに当たらないタイミングで俺たちは魔法を耐えた盗賊に斬りかかる。


「何事だ!!」

「ぐあぁぁ!!」

「くそっ! 襲撃だ! 無事な奴は戦え!」


 どうやら盗賊の頭と思われる奴はかなりの実力があるようだ。俺の魔法を耐え、状況を把握して命令を飛ばしている。

 その間俺たちも何もせずにただ突っ立ってるわけもなく、盗賊たちが態勢を整える頃にはその数を半数以下まで減らしていた。


「くそがっ! よく見りゃガキと女じゃねぇか!」

「不意打ちを喰らうのがここまで不愉快だったとはな。折角元いた場所を離れて来たってのに台無しだ!!」


 先程の不意打ちで生き残ったのは頭と幹部と思われる6人のみだった。


「さぁ、どうする。無駄な抵抗はやめるか? それともまだ戦うか?」

「はっ! 女が何言ってやがる。てめぇら二人とも嬲り殺してやる! いけ!女は三人、ガキは二人だ!」


 どうやら俺の方が軽く見られているようだ。ムカつくな。それにガキ呼ばわりされてるが既に成人済みだ。そこもムカつく。


 俺に襲いかかって来たのは細身の蛇のような雰囲気の刺突剣を持ったヒューマンと巨漢の身の丈を超える戦斧を軽々振り回す熊のビーストだった。

 アンナさんの方には弓使いと魔法使いのヒューマン、双剣を使うデーモンが襲いかかっていた。

 この頭を含めた六人は装備も良い物であり、襲って来た五人は冒険者のパーティのようなバランスをしている。


 アンナさんは攻撃を喰らうことは無さそうだが、三人の絶妙な連携に攻めあぐねているようだ。早めに終わらせるか。

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