第2話 龍の牙
親父との訓練が終わり、課題や良かった所を話しながら母の元に向かう。どうやらあの気配は来客、アンナさんのようだ。母と会話をしている。こちらに気付き、挨拶を交わす。
アンナさんは俺が3歳の頃から関わりがある騎士で、この森の外の事や色々な事を教えてくれた人であり、訓練をつけてくれた事もある実力者だ。ちなみに色素の薄い茶髪の綺麗系ハーフエルフお姉さんだ。
まぁ、4歳以前のことはあまり覚えてないので本当はもっと長い付き合いかもしれない。
生まれた瞬間から今までの、全部を覚えてたらこえーわ。
それにしてもアンナさんが届けに来たという二振りの剣。とにかく存在感が凄い。気を抜けば何かを持って行かれそうな雰囲気をしている。
俺がじっと見つめていたからか、剣を受け取った親父がこちらを向いて剣を見せてきた。
「この二振りの剣は僕からスタークへの贈り物だ。銘は二振りで『双竜牙』と言って、大剣サイズの方は『崩牙』、ショートソードサイズの方は『穿牙』と言う。見ての通り、崩牙は一撃の威力に優れ、穿牙は連撃や突きに優れている。どちらも僕の牙を使って周りにミスリルとアダマンタイトの合金をコーティングしてあるから耐久性やどんな攻撃の防御、受け流しも大丈夫だよ。前に訓練の時に咄嗟にやった二刀流がかなり良かったし、スタークの性格的にも合うと思ってね。」
「すげぇ……。」
あまりの凄さに言葉が出ない。
牙は、龍が持つ身体の中で最も硬い部位でえり、それに加えミスリルとアダマンタイトとは。龍の牙は言わずもがな、どちらも貴重で最高の鉱石と言われる高価なものだ。さらに、素人目でも素晴らしいと分かる加工、研磨の技術。これを作ったのは高名な鍛冶師なのではないだろうか。
「気に入ってくれたかな?スターク。」
「あ、あぁ。気に入らない訳ないよ、父さん。ありがとう。」
親父はそれは良かったとホッとしているが本当に凄い剣だ。これ以上のものなど無いと思える。かなしいかな、今の俺の身長では穿牙しか使うことができない。こればっかりは仕方ないがもどかしいものだ。
これを機に更に鍛錬に励むとしよう。めちゃくちゃやる気が出てきた。
「それでエレナ、手紙にはなんで書いてあるんだい?」
「近況報告とか色々。普通の手紙よ、ただ重要なのが一つ。アンナ、シュッツヘルン家に行くのね。」
「はい。他の数人の騎士達も一緒にですが、モントリヒト家とシュッツヘルン家の騎士をお互いに派遣し技術交流やそれぞれの成長に向けたものです。両家とも関係は良好で交流も盛んですから。」
「へぇ、それなら今後はアンナに会える機会も増えるわね。嬉しいわ!」
なんと、アンナさんが隣の辺境伯領で暮らすことになるらしい。これまでも度々、会う機会があったが今後は増えるらしい。これは外の事を知るチャンスだ。
親父も母さんも森の外に出ることがかなり少ないので俺は今まで森の外に出たことが無い。
……あるにはあるが俺がまだ赤ん坊の時だ。母さんの両親や親戚たちへの顔見せやお祝いなどでだ。もちろん記憶にない。
なので俺は森の外に憧れている。森の生活に不満があるわけではないが広い世界を旅してみたいのだ。
——シスディオ歴900年
あれから7年の時が経ち、俺は17歳になった。
改めて、鏡に写る自分を見る。身長は約185cm。母親譲りの銀髪に、父親譲りの金色の瞳。顔は美形の両親に似て整っている方だろう。自分の顔に興味が無いのでよくわからないが。
そもそも自分の中では顔よりも筋肉の方が評価が高いのだ。不必要で、無駄な動きを阻害する筋肉は無く、人類のそれより遥かに質が高いうえ、実戦と日々の鍛錬によって出来上がったのだから。
今では双龍牙も手足のように使いこなせるし、崩牙の超重量も苦にならない。
話を戻すが、この世界は16歳で成人とみなされ、成人すると《スキル》が発現することがあるらしい。
らしい、というのは成人した全員がスキルを発現させるわけでは無いし、既に成人した大人でも後々スキルを発現させることもあるからだ。
龍の血が流れている俺も『龍人』の名の通り人類であるため、三つのスキルが覚醒した。全て龍に関するスキルのため制御が難しく、この一年はスキルの訓練に注力した。
当時、母さんにスキルについて質問をしたことがあった。母さんの曰く、六大神教の教えにおいて、「スキルとは、大昔に人類が魔物に対抗するために見込みのある個人の成長と共に発現し、魂に定着するよう神が定めたもの」とされているらしい。
この世界の人々は信心深いようだな。スキルについては分かるような分からないような感じだった。
さて、今日は早めに寝るとしよう。明日念願の旅に出るのだ。旅といっても冒険者としての活動のついでになるだろうが、冒険者の仕事も楽しみなのだから問題は無い。アンナさんが案内として来てくれるらしいので心配も少ないしな。
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