第3話:相談

 あっという間に月日が流れて、受験前日になった。優李と私は最終確認をするために、私の部屋で勉強をしている。模試判定では、2人とも合格圏内の成績を出していたが、私たちは油断することなんてない。



「いよいよね。何だか緊張してきちゃったわ」


「まぁ、ここまで頑張ってきたし俺たちなら大丈夫だろ」


「うん。そうね。私たちなら大丈夫よね」



 優李がそう言ってくれだけで、私は誰にも負けない勇気を貰える。これまでの勉強は本当に大変だったけど、優李が一緒にいてくれたから頑張れた。明日はその成果は遺憾無く発揮するだけ。そして2人で仲良く合格したら、また一緒に登校するのよ。


 近い将来訪れるであろう高校生活を想像して、私のモチベーションはドンドンと上がっていった。



「おいおい、気合いを入れるのはいいけど、あんまり入れ込みすぎるなよな」



 優李は笑いながら頭を撫でてくれた。

 私は「ん」と言いながら目を細めて、頭に感じる優李の優しさを感じる。



(また、優李に思ってること見抜かれちゃったわね)



 そう思うとちょっと照れくさいけど、とても嬉しい気持ちになった。




 -




「羽月ちゃん! ゆー兄ちゃん! 高校合格おめでとう!!!」



 パンパンパンッ!!!


 優李の妹の華花ちゃんがそう言うと、四方からクラッカーの音が鳴り響いた。



「あんた羽月ちゃんと同じ学校にまた通えて本当に良かったわね!」



 優李の背中をバンバンと叩きながら手荒い祝福をするのは、優李のママである祐美子さんだ。祐美子さんは、私のことも本当の娘のように可愛がってくれるとても優しい人なので、私もついつい甘えすぎてしまう。


 そう。私と優李は無事に第一志望の高校に合格することが出来たのだ。私たち以外にも、もう一人の幼馴染みである奏も一緒なのでとても嬉しい。




 ―




 パーティーがひと段落すんだので、私と優李は花咲公園までお散歩に出掛けることにした。みんなと一緒にいるのは楽しいけど、優李と2人でいる時間が何よりも大切に感じる。



「パーティー楽しかったわね。優李と同じ高校に進学できるし、私にとって今日は特別な日になったわ」


「そうだな。俺にとっても今日は特別な日になったよ。だって羽月とまた同じ学校に行けるって決まった日だしな」


「うん。本当にそうよね。また3年間優李と一緒に過ごせるって思うと、幸せ過ぎて今から高校生活がとても楽しみだわ」


「俺もだよ」



 そう言って優李は私に優しくキスをしてくれる。このままずっとこんな幸せが続くといいな。




 -




 また月日は少し流れ、卒業式まであと2週間。私はベッドの上で中学の思い出を振り返っていた。



(あともうちょっとで中学生も終わりなのね)



 そう思うとちょっと寂しい気持ちになったけど、今はそれよりも高校生活の方が楽しみで仕方がない。



(お風呂も沸いたし、そろそろ入ろうかしら)



 そう思って立ち上がろうとすると、スマホにRINEの通知が届いた。


 優李かしら? と思いスマホを開くと、光輝からのRINEだった。

 珍しいわね、と思いながら開いてみると『羽月に相談したいことがあるんだ。明日学校帰りに時間もらえないかな?』というメッセージ内容だった。


 光輝には私の恋を後押ししてくれた恩があるし、明日は丁度一人で帰る予定だったから『いいわよ。じゃあいつもの公園でいいかしら?』と返事をした。


『マジで? ありがとう! 助かるわ! だけど、優李にはまだ知られたくないから内緒で頼むな』


 優李にも伝えられないことなのかしら?

 あまり面倒な相談内容じゃなければ良いのだけれど。私は光輝の相談内容に疑問を持ちながら、お風呂場に向かって歩き始めた。




 -




 学校が終わって私が制服のまま花咲公園に行くと、光輝はすでにベンチで座って待っていた。



「お待たせ」



 私は小走りで光輝の元へ向かうと、「悪いな」って一言謝ってきた。



「大丈夫だから気にしないで。それより光輝くんが私に相談って珍しいわよね。いったいどうしたのかしら?」


「あぁ、そうだな。ちょっと急で驚くかも知れないんだが、実は中学を卒業したら俺は県外へ引っ越すことになった」


「そうなの? 優李は? 優李はそのこと知ってるの??」


「いや、あいつはまだ引っ越すことを知らないよ」


「何で優李じゃなくて、私に先に言うのかしら? 優李が寂しがるから早く教えてあげて欲しいわ」


「あいつには卒業式にちゃんと伝えるよ。それよりも引っ越す前に、俺の本当の気持ちを羽月に伝えておきたいって思ったんだ」


「……え?」


「羽月。俺はお前のことが好きだ。ずっと前からお前のことが好きだった。お前には優李がいたからずっと言えないでいたが、俺はお前だけをずっと見ていたんだ」


「そんな……嘘よね? そんな冗談言うなんて驚いちゃうからやめてよ」


「本気だよ」


「何でそんなんこと言うの? だって光輝くんは私のこと後押ししてくれたでしょ?頑張れよって言ってくれたわよね。それに1年のときから付き合ってる子だっていたし、それで何で私のことが好きなんてことになるのよ」


「羽月にはずっと優李がいたからな。彼女を作れば大丈夫だと思ったんだ。だけど、お前に頑張れって言ったとき胸が苦しくなってやっぱりダメなんだなって思ったんだよな」



 光輝は私の目を真っ直ぐ見ながら話を続ける。



「お前らが付き合ってからも気持ちを誤魔化すために、彼女とも付き合いを続けていたけど、それもとうとうキツくなってきて去年の夏に別れたんだ」


「そんなこと言われたって私にはどうすることもできないわよ。だって私には大好きな優李がいるのだから」


「分かってる。昔からお前たちと一緒にいるんだ。その気持ちは痛いほど分かってる。だけど頼むよ。俺はもう引っ越していなくなっちまう。だから最後に羽月、お前との思い出がどうしても欲しいんだよ」


「そんな……だって………」


「頼む。一度だけでいいんだ。俺にこの町での、いや、お前との最後の思い出をくれ」



 光輝はそう言うと私にキスをしてきた。

 吃驚した私は「イヤ!」と跳ね除けてしまうが、その時に見た光輝の悲しそうな顔が目に飛び込んでしまった。




 -




 光輝はいつも自信たっぷりだった。


 優李がちょっとバカっぽいことをしても、いつも大人っぽい感じで一歩後ろから見守ってくれていた。同じ年齢なのに何であんなに落ち着きがあるんだろうね、と優李と話したのは一回や二回だけではない。

 だけどクールともちょっと違った。場を盛り上げる力もあったし、クラスでも一目置かれる中心人物だった。


 そんな大人っぽくて、自信たっぷりの光輝が弱々しく、今にも泣きそうな顔をして私のことを見ていた。

 私はここで拒絶してしまうのがとても残酷なことなのではないかと思ってしまった。


 だからつい言ってしまったのだ。



「うん。分かった」と。

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