第51話

聞こえていないというわけではないだろう。

話に夢中になっている可能性が一番高い。

まだ着替え終わっていないわけでもなさそうだが入るわけにもいかない。

「俺も着替えてくるから」

聞こえていなかろうが、一言断っておいた。後で責められても、良心に従って言い訳の材料になる。

証明してくれる人はいないわけだが。

中に誰が居るのか知らないが、見知らぬ人と一緒に着替えるというのも神経を使うため出ていくのを待ちたい。

そんな理由で待っていたのだが、汗の不快感には勝てない。

のっぺりとした面持ちで目を合わせぬよう俯き加減で男子更衣室に入る。

「え...?」

女子の声が重なる。

思いもよらぬ発生に視線を上げてしまった。

そこには顔を朱に染めた下着姿の二人が立っていた。

藤桜は動揺していて、下を向いたまま動かなくなってしまう。そして制服からではわからなかったが、何しろ大きい。

藍水も上半身を隠すように腕を交差させているため、双丘が強調されてしまっているが...藍水に比べると、いや、どうでもいい。

「早く出てけえええええ」

顔を更に紅潮させながら、藍水の叫び声が更衣室内を反響する。

刀を振り回しながら襲ってきそうな雰囲気だ。

藍水の圧に押されて更衣室を飛び出した。

だが待て、ここは男子更衣室のはずだ。

もう一度立札を覗くと「男子更衣室」と記載されている。

今ここで弁解しようとしても、火を増長させるだけだ。

上半身にに流れ出た汗が乾いていくのを俯瞰するように鎮静するのを待つ。

寮に戻って着替える方が早そうだが、二人の荷物は全て俺が持っている。また戻ってくるもの面倒くさい。

二人の分を置いてくれば良かったと後悔している。

ただ茫然と座り込んでいると、5分ほどで二人が出てきた。

「どういうこと?」

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