第50話

夕闇が迫ってきていた。

周りは静謐な時間へと飲み込まれていく。

ただ、一つ練習場の灯籠は明かりがつき、二人だけが作り上げた戦場がいつまでも光を浴びている。

「そこまで」

一声掛けると二人揃って呼吸を乱しながら尻餅をつく。

何分やっていたのかはわからなかった。そこまで打ち合い続けたわけではないことはわかっている。

しかし、異様に長い時間行っていた気がした。

俺はただ、同じ風景を見つめていただけで、引き分けのこの二人の練習に何か感じたわけではない。

しかし、なぜか体に熱りを感じた。

「次は俺とやるか?」

「勘弁して〜もう疲れた〜」

「茜澤君、酷い...」

「冗談だ。まだまだ弱いが、見てるだけでも楽しめたよ」


「もう持つのも嫌だ〜動けない!拓真君持ってきてよ〜」

木刀を宙でぶらぶら揺らしながら、駄々をこねる。

「断る」

その横で藤桜が重たそうにしているのが目に入った。

どのように持つのか見届けていると、ちらりとこちらを一瞥してきた。目が合ってしまう。

「...」

「持ってやろうか?」

「いいの?」

「重たそうだからな」

無言の中に切実な願いのようなものを感じた。決して無碍にはできない。

「おかしくない!?拓真君、翡翠ちゃんにだけ甘すぎる!」

「そんなことは無いだろ」

すると怪訝とした眼で注視される。

「...わかったよお前のも持っていってやる」

「やったーじゃあ、着替えたいから先行ってるね!どこかで待ってて」

そのまま早足で翡翠と一緒に更衣室へと足軽に向かっていく。

動けないはずではなかったのだろうか。

置き残された二人分の道具を拾うと、流石にかなりの重さだった。

以外に盾もずっしりと腕にのしかかってくる。六本分の刀を腰に提げ、盾二つを両手に掲げ歩き出す。

隣り合うことで擦れる金属音が嫌に耳を刺激してくるせいで歩くのも億劫だ。

耐えながらも下まで降りてくると、空き教室の電気が二つ付いているのがわかった。

一つは男子更衣室。

少し間隔を空けた先にある、もう一つの部屋は普段何に使われているかわからない教室だ。男子更衣室で着替えるわけがないので隣の空き教室になるな埃が降り注ぐほど汚かった筈だ。良くあんな場所で着替えようと思う。

少し歩くとしても女子更衣室の方が清潔で広い。

立って待っていたが、面倒くさくなりその場へ座り込む。ようようと眠りが襲い始めてきた。

俺も早く着替えたいわけだが、それにしても遅すぎる。携帯を確認すると20分ほど経っていた。

「おい、まだか?」

早く着替えて帰りたい。

だが返答もない。

唯一何か硬いものに対して叩きつける音のようなものが聞こえた。

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