第49話

藍水はそのまま耳を塞いでいるが、これでは何をしに練習に来たのかわからない。

「もう一度やるぞ」

「...わかりましたよ〜だ」

面倒くさがると想像していたが、俺の目を見張るとすぐに立ち上がった。

やはり根性だけはあるように感じる。

「じゃあ次は二人でやってみてくれ」

『え?』

二人が同時に素っ頓狂な疑問声を発する。負け続けるのも分が悪い。

どちらも素質はあるはずだ。また守りの練習もしておきたい。

「本気で打ってみろ。ただし首より上は無しだ。ついでに足もやめよう。そして今回は盾を使ってもらう」

盾は女子にのみ渡されている。女子同士で譲渡することはできるが、男が使うのは禁止。

女子がかなり優遇されているように感じるが、重さもそれなりにあるので、それが逆にデメリットにもなる。

「気が引けるんだけど...」

「うん」

確かにチーム内で戦うというのも、恐れ多いだろう。

それならば、更に悪い提案をするだけだ。

「嫌なら、藤桜は巻藁に100回の打ち込み、藍水は俺が扱いてやる」

本来、藤桜は巻藁の練習をしようと思っていたが、藍水に押されて渋々行ったまでだ。

基本から基礎の基礎からやらなければならない。

藍水の場合は基礎はありそうだが、まだ体力は乏しい。

結論、どちらも巻藁を使う練習が欠かせない。

「...やります」

「...わかった」

「よし、じゃあ俺が止めるまでだ」

幾許か互いに間合いを取ると、右手に木刀、左手に盾を構えた。

「始め」

俺の合図とともに藍水が駆け出す。

「やああああ」

俺と合わせた時よりは控えめに聞こえるが、威勢は良い。

「やあ」

反対に藤桜は藍水に挨拶でもしているのかと勘違いするほどの掛け声だ。

みていると、藍水が攻めている。横を打つと次は斜めに、先ほどと同じように視線のせいで、次どこに打つわかってしまい、殆どその行動の繰り返しだが、攻撃をやめない。

藤桜は防ぐのに必死で、右手は全く動いていない。だが、藍水が振ってくる方向を全て防ぎきっている。

まぐれであると思うが、どこを打ってくるのか、わかっているように。

先ほどの俺との勝負で疲れも溜まっている。すぐに体力は無くなっていた。

それでも続けているのは、どうしてだろうか。

楽しい?負けたくない?どちらにせよ俺がここで止めるのも野暮だ。

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