第48話
「うん」
嬉々とした表情で鷹揚に頷く。
言い足りなかったことは藤桜が終わってからにしよう。
向かい合い、木刀を持つと自信満々にこちらを定めた。
それにしても近すぎないだろうか。藤桜の歩合でも三歩ほどで俺のところへ届く距離だ。
数日前は木刀を持つだけでも、ゆらゆらと倒れそうになっていたのに、軸を固められている。
影でトレーニングでもしたのか、まずはレベル0に立てた。
「いいぞ。一回でもどこかに当てれば勝ちだ。本気でいいぞ」
「うん」
特に掛け声などはなく、一気に木刀を振ってくる。しかも狙ってきたのは上半身でなく、足。
下方面から左上へと揺らいでくることがわかる。
いつも上半身に打ってくるため予想していたものと違い、一瞬焦ったせいで反応が遅れた。
ギリギリで飛び越えてかわした。
「狡猾なことしてくるな」
「ずっと考えてた」
自慢げに言ってくるが、別に考えなくても...実技となるとポンコツになるのだろうか。
戦略としては間違ってはいないが今は練習である。あまり相応しくない。
こういった場合、藍水の方が考えそうな手段なのだが見立てによらない事もあるものだ。
「でも当たらない」
「当然だ」
それでも多少油断していたせいで、内心焦っていた。依然として振るスピードは遅いため、避けられただけのような気がする。
透百合の腕前で藤桜のような不意打ちをしてきたとしたら、簡単に俺の足骨は崩壊していた。
本気で掛かってこいとは言った手前、もし当てられていたら目を合わせられなかった。
恥ずかしさと痛さで。
「...なら普通にやる」
「最初からそうしてもらいたかったんだけどな」
「...ごめんなさい」
「気にするな」
一度首肯すると、そのまま駆け出してくる。
先程とは違い距離が遠くなったせいで、俺のところまで来るのにかなり時間がかかっている。
率直に言えば、足が遅すぎる。
数日前よりは打ち込みが長く続くようになっているが、滅茶苦茶な軌道に変わりはない。
数分間続けると、
「はぁ...はぁ...もうダメ...」
「頑張ったな」
「少しは成長した?正直に言って?」
上目遣いに頬を赤く染め、汗がわずかに流れていく。
妙に妖艶な表情を浮かべながら聞かれると、つい顔が強張ってしまう。
「...強くなったと言ったらそれは嘘になるな...」
「...そうだよね」
依然と荒ぶる呼吸を整えながらも項垂れてしまう。
想像はしていても改めて本当のことを言われてしまうとやる気はなくなってしまうだろう。
「だが、前よりは打ち込みが続いた。だから成長はしたんじゃないか?」
「ホント?」
「ああ」
「ありがとう」
「...ねえ、何かアタシには厳しくない?」
「いや本当のことを言ったまでだが」
「だって、アタシには悪いところ言い足りないくらいだったじゃない!」
「そうだったな。言い残していたことも含めてもう一度言おう。自分の剣筋が見えていないのと、目線のせいで...」
「分かったから!アタシが悪かったです!」
折角難点を教えてやろうとしたが、遮られてしまった。
飴と鞭は使いようと言うが、鞭は打ちまくっていくスタイルでいく。ただし藤桜には飴増しで。
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