第32話

「...嫌だ。私もこの学校辞めるから」

教室中が静かになった。いや、そう感じただけだ。囁き声が聞こえる。俺らの周りだけが口を噤んでしまった。

「は?」

「私もやめる」

「それは真剣にいっているのかい?藤桜さん」

珍しく先生が割り込んできた。いつもなら要件だけ伝えてすぐに戻るはずなのに帰らずに。

「...はい」

深呼吸すると勇気を入れるように発する。

「困ったなあ」

困惑した表情を見せながら頭を掻いている。

「だからもう茜澤君には、このグループには何も言わないで」

「はあ~。何を言い出すかと思えば...お前...いや、わかったよ。だが覚えておけよ」

声を荒げたわけでもない。ただ小さい声ながらも芯の通った一声には力強さが備わっている。

そう強く言い放った彼女は誰よりも強く感じた。

随分と素直に引き下がったことに多少驚愕した。

藤桜の迫力に気圧されたのか、桑原たちは言葉を飲み込みこみ、じっと見つめたかと思うと、

「じゃあな。茜澤くん。楽しかったよ」

そのまま帰ろうドアを開ける。

結局何もできなかった。

後になって焦燥感は際立ってくる。後悔になってしまえば過去が変わることはないのに、それでも抗おうとしてしまう。

ふざけた考えに嫌気がさす。

「少しいいですか?」

透百合だ。有無を言わさず颯爽と入ってくる様子は威厳が際立ちカッコ良さを醸す。

「アナタたちも戻ってもらえる?」

「...なんだいきなり」

「戻ってもらえるかしら?」

「......わかったよ」

さすがAグループの権威。反抗するでもなく素直に引き下がった。

「今回の件のことで事実を話したいと思いまして。よろしいでしょうか?」

「ああ、進めてくれ」

事実とはなんだろうか。俺が何もしていないという証拠か、いや接点もない上のランクがそんなことをするのは考えにくい。

樫谷たちも何のことかわからないように疑問を浮かべていた。

逆に先生だけは興味がないのか、特に表情を変えることなく、ただ透百合を見据えている。

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