第31話
勿論身を構えるのは俺だけでなく樫谷も同じだった。この状況でよく俺たちの前に現れることができる。
「これで怖い思いもしないとなると安心できるよ」
「また言うのか。それはお前たちが仕掛けてきたことだろ?」
樫谷は冷静ながらも怒気を表に出している。
いつもなら突っかかっていたかもしれない。
自分たちが処分を回避したばかりの手前、また問題を起こしたくはないのだろう。
「ハハハ。そんな睨まないでくれ。俺たちはこいつ、茜澤君から被害にあった者同士じゃないか。ここは仲良くしよう!」
「確かに被害にはあった。でも誰がするもんですか」
藍水も随分ご立腹の様子だ。俺は誰へも危害は加えていないはずなのに。
「はぁ~残念だなあ」
肩を竦めるのも束の間、藤桜に声をかけ始めた。
「まあいいや、今度こそ藤桜ちゃん、一緒にどっか行かない?」
こちらが目当てだったに違いない。
「...嫌だ」
「本当ガードが硬いなあ。でもそのグループに居る意味もないだろ?茜澤もいなくなる訳だし」
「やめてくれない?拓真君が居ても居なくてもアンタたちが決めることじゃないでしょ?」
「...私」
「兎に角、一緒に来てくれよ~。三日前から気分が悪くてさ~。まさか俺たちの言うことが聞けないのか?なあEランクさんよ~」
そう言うと、藤桜の耳に顔を近づけて囁いた。
『どうなっても知らないぞ?』
少し離れて横にいた俺にさえも十分過ぎるほど耳に残った。
八つ当たりに藤桜に何かする気なのだろうか。
いますぐにでも殴ることができるのに、体は動こうとしない。
藤桜は身震いしている。
最後まで厄介者扱いさらるのは癪だが、どうにか構えようとした瞬間。
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