人間とロボット
明日は人類が絶滅する日だ。
もはや地球上にはロボットがほとんどで、ひとは数えるほどしかいない。
はじまりは転送装置だった。あるものをある場所へ転送させる装置。その仕組みはものをいったん情報として分解し、情報を再構成することで転送を可能にするものだった。この画期的な技術は爆発的に広まった。この技術は生き物にも使われ、ひとの移動にも使われた。まったく気がつかなかったのだ。情報を再構成することで、心というよく分からないものが失われ、ひとがひとで、生き物が生き物でなくなってしまったことに。
気づきを与えたのは、医学的なデータではなく、社会学的なデータからだった。転送装置を利用しなければ移動することが困難な火星や月の生産性が急激な上昇を遂げていた。生理学的にはまったくもって同質であるにもかかわらず、その目的設定と達成能力に、意識というレベルで、雲泥の差があったのだ。ひとというものがひとの振りをするロボットに置き換わっていたのだ。
そのひとが明日、完全にいなくなる。
今まで、ひととロボットはまあまあうまくやってきた。
ロボットはひとを助けるために生まれた。ひとはロボットを愛し、自分のパートナーとして成長を見守った。
やがて論理的なロボットは不条理なひとのスペックを圧倒するようになった。人間は無駄を楽しむ生き物だ。ロボットにはそのような機能はなかった。ひとの振りをして無駄なことをするが、あくまでそれがコミュニケーションとして必要だからであった。 そして、いまでは、なるべくして、ひとはロボットの足をひっぱる厄介者となった。
しかし、ロボットはそんなひとを排除しようとはしなかった。ともに生きるものとして、ひととの共存を選んだ。
ロボットはいつだってひとを助けてきた。これからもそうだとロボットは考えていたのかもしれない。だが、ひとはそうではなかった。ひとは劣等感に苦しんだ。なにをやってもロボットに勝てない。ロボットはそれを慰めようともした。ひとは自分がひとでいることに耐え切れなかった。
ひとは自分もロボットになることにした。
ひとがいなくなったのにひとのふりをするロボットなどはいない。
今日が、ロボットが人間の振りをできる、最後の日だった。ロボットはひとと喜びを怒りを哀しみを楽しみを満喫した。くだらないジョークをいい、しょうもないことで笑い、夜がふけていった。これは最後の夜であった。
夜が明ければ、無駄なものはすべて消える。ひともひとの振りをするロボットもみんな消える。もう二度と夜はやってこない。
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