一寸先は闇

 成金の屋敷で主人とその友人がニュースをみていた。そこに屋敷の執事が給仕にあらわれた。テレビではとある石油会社の不正会計を連日報道していた。


「ああ、なんということだ、まさか、あの株券が一瞬で紙くずになってしまうなんて・・・・・・もう破産だ」

 執事はなにもいわず、主人と友人の紅茶を淹れ、応接室をあとにした。


「だから先物相場の一寸先は闇といったろう」

「なるほどたしかにそれは君のいうとおりだった。これからどうすれば・・・・・・」

「それではわたしは失礼することにしよう」友人はそそくさと帰り支度をはじめた。


 黄昏のときはすぎ、屋敷は宵闇に包まれた。友人は振り返らず屋敷を去った。屋敷はしんと静まりかえっていた。

「ところで、屋敷が暗いようだが、執事よ、灯りをつけてくれないか」

 主人は呼びかけたが応えはなかった。主人の声だけが屋敷に響いていた。

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