幸か不幸か
隕石が落下をし、友人の経営する工場が爆発した。その爆発の影響は付近の家々を吹き飛ばした。甚大な被害にもかかわらず幸いなことに死者はまだいなかった。
友人はその事件が起きるまでは資産家で、国内有数のゴム工場の三代目だった。事故の原因は隕石ではあったが、そうであったが故に保険がきかず、不運なことに彼は破産したのだ。
さぞかし落ち込んでいるだろうと思い、わたしは幼年学校からの悪友を皮肉まじりに励ましてやろうと数年ぶりに帰郷した。
爆散した工場のとなりに半壊した彼の屋敷があった。わたしが訪ねると彼はその屋敷の居間に座っていた。
「やあ、ひさしぶり、ちょうどよかったよ、わたしのほうから連絡をしようか迷っていたからね」彼はけろりとした態度をみせていた。
「君のような不幸な人間はそうはいないだろうからね、どんなに陰気な顔をしているのだか、ひとつ見物でもしようかと思ったのだが、なんだい、あんがい元気そうじゃないか」わたしは悪友の前に座り、学友時代のままの軽口を叩いた。
「それは当てがはずれてご愁傷様だ。さいきん良いことをきいたんだ。輪廻転生。知ってるか。この人生が終わってもまた新しい人生がはじまるらしいじゃないか。今回はこんな不幸があったんだ。次はどんな幸運からはじまるか分からんぞ」
これはいけない、とわたしは思った。彼は正気を失っている。このままでは彼はまるで遠足の準備をするように自分の死出の準備をするに違いない。
「転生というがね、きみ。次も人間に生まれ変われるなんて保証はどこにあるというんだい。不運があったというが、そもそもヒトに生まれてきたことが幸運であってね、さらにはぼんぼんで生まれてきて、それを失ったところでね、いいところトントンだ。そんなことも分からぬわけではないだろう。いいかげんに目を覚ましたまえよ」
彼は糸がきれた人形のように肩を落とし、わたしに訴えた。
「きみは目を覚ませというがね、わたしはもう見つめたくない、はやく逃げ出したいのだよ」
悪友は肩を震わせ泣いていた。それはわたしの軽口に不敵な笑みを浮かべ毒舌を返す彼がはじめてみせた表情だった。励ますつもりが泣かせてしまった。あの彼が泣いている。わたしは友の手を握り、ただ「大丈夫だ」と繰りかえした。
わたしはなにをしにきたのだろうか。彼は希望に満ち溢れていたのに絶望させてしまった。彼を励ますつもりが泣かせてしまった。わたしのした選択が正しいものだったのかどうかはわたしは知れない。しかし、彼はたしかにまだ生きている。そうであるならばやり直すことはできる、とわたしはわたし自身を納得させた。
ある日、隕石が落下をし、友人の経営する工場が爆発した。その爆発の影響は付近の家々を吹き飛ばした。甚大な被害にもかかわらず幸いなことに死者はなかった。
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