宇宙人のおくりもの

 ラニアケア超銀河団局所銀河群銀河系オリオン腕太陽系第三惑星地球東アジア日本東京都江東区の海の森公園はかつてないほどの賑わいをみせていた。いままさに異性人の宇宙船がこの場所に着陸しようとしていた。


 どこからともなく野次馬が海の森公園にはおしかけ、世界中のメディアもその歴史的瞬間を放送する使命に鼻息を荒くしていた。政府はその電撃的な来日に対応が間にあわず、立入制限もままならないようすだった。


 あわく青白い明かりを発する倒れたたまごのような宇宙船だった。長さ300メートル、幅200メートル、高さ50メートルほどであろう巨大な船の底の部分が海の森公園に着地した。船と大地の接地面で船は歪み、どうやらその表面は液体でおおわれているのかもしれなかった。接地面がある程度の大きさになると、船は再び浮上し、逆再生をみるかのように丸みをおびたボディに戻った。


 宇宙船は大きい箱を地球に産み落とすとそそくさとまた宇宙へ飛び立っていった。


 てっきり地上に降りてその姿をあらわし、演説のひとつでも期待した住人は肩透かしをくらって言葉を失ってしまった。

 残されたのは不気味な箱である。友好の贈りものならば、出てきて握手のひとつもするだろう。では、これはなんなのだろうか。住民の不安がひとつのかたちとなり波のように伝播した。

「爆弾だ」そう誰かが声をあげるやいなや野次馬の住民は蜘蛛の子を散らすように公園から逃げ去った。


 そこには宇宙船を撮ることに夢中になっていたメガネの少年だけが残された。彼は一心不乱に携帯のシャッターを切り続けていたためまわりの喧騒にまったく気がつかなかったのだ。メガネの彼は大きく白い正方形の箱に近づいた。彼が近づくと箱の各辺がまぶしい光を発した。そして展開図をつくるように箱がひらいた。箱のなかみは箱の底辺の光から展開中の箱に昆虫のような影をつくった。箱がかんぜんに展開し日の元にその姿があらわになると、そこにはボイジャー一号があった。


 ボイジャー一号は宇宙で撮られた映像そのままに丁寧に梱包されて入っていた。そこには一通のメッセージカードのようなものがあった。


『あなたたちがわたしたちの宇宙に忘れていたもので、お届けにあがりました。ハイキングにきたのならばきたなりに、おもちになったカメラは放置しないでしっかりもちかえって下さい』


 このメッセージカードが解読されるのは500年後のことである。これは地球と異性人とのおそらくははじめての接触であった。

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