退屈

「退屈ね」と女は言った。

「退屈なのはそのように世界をみているからだ」と男は言った。

「面白さというものはそこかしこに転がっていて、要はそれを拾い上げるか、そうしないかの問題にすぎない」

「つまらないのはつまらないと感じている側に責任があると?」と女は尋ねた。

「悪いとは言っていない」と男は言った。「ただ、そうだね『見かたしだいであなたの味かた』と法律事務所のコマーシャルにあったように退屈なものや凡庸なものでも考えようによっては興味深く非凡なものにかえることもできる。例えばどうだ、君はどうしても夜中にチョコが欲しくなってコンビニに買いに走った。コンビニのチョコの棚はなぜか空っぽ、チョコひとつない。ちょこっとすらね」

「で?」眉をあげ、女は続きを促した。

「終わり。面白い話だったろ?」と男は言った。「君はわたしのことを『デートで退屈な話を自信満々に語る男』と伝え広める権利を得た。家族や会社の同僚や取引先に君が口を開いたら一貫の終わりだ。わたしの将来設計が台無しになる」

「絶対にしゃべるなよ?」女は笑った。

「二人だけの秘密だよ」男も笑った。

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