第十一話


 次の日、俺は雨音との約束であるデートをするため、いつぞやの駅前に来ていた。

「三十分も早く着いちまった……」

 雨音の提案で今日は駅前で待ち合わせする事になった。俺は「いつもどおり家から目的地に行ったほうが早いだろ」と言ったのだが、

「いい、おにいちゃん、今日はデートなんだよデート。こういうのは待ち合わせするのが普通なんだから」

「というわけでわたしは準備とかあるから先行っててねおにいちゃん!」

 とかなんとか言われてなぜか家を追い出されてしまい、今に至る。

 とりあえずスマホでもいじって雨音の事を待つ。そうして十五分ほど経った頃、雨音が来た。

「おまたせおにいちゃん」

 俺は雨音がきちんとオシャレしている事に驚いた。なぜなら雨音は一年中、俺のお下がりのパーカーにホットパンツばかりで少なくとも俺の前ではオシャレなんてしてこなかった。しかし、今日はオシャレをしてきているということはこれが雨音が言うにはデートだからだろう。

「もしかしておにいちゃん驚いてる?」

「そりゃ俺と遊ぶ時はオシャレしないやつがいきなりこんなことしてきたら驚くだろ」

「うんうん、それでそれで、可愛い?」

「もちろん可愛いぞ」

「やったぁー!そうやって恥ずかしがらないで可愛いとか言えるのおにいちゃんのいいところだと思うよ」

「? ああ、ありがとう?」

 これは妹限定だろう。他の人だと恥ずかしくて素直に感想なんて言えるはずがない。

「じゃあ行こっか、まずはせっかくのデートだし、この喫茶店行こうよ」

 雨音が出したスマホの画面を見ると、この辺りでは少し有名なカップル限定のジャンボパフェがある喫茶店だった。

「ん、じゃあ行くか」

 そう言って歩を進めようとすると、雨音が声を掛けてきた。

「待っておにいちゃん、今日はデートなんだし手、繋ごうよ」

 遠慮がちに左手を差し出す雨音。もちろん俺はそれを快諾し、手を繋いだ。

「久しぶりだなこうやって雨音と手を繋ぐの」

「そうだね。わたしが中学二年生の冬くらいの時だっけ最後に手を繋いだのって」

「確かそのくらいだったな」

「おにいちゃんが寒いから抱きついてとか言ったのが始まりだったよね」

「違うわアホ」

 正確には俺が寒すぎるって登校中に言ったら「じゃあ右腕だけは温めてあげる!」とか言って抱きついてきたのが始まりだ。決して俺がシスコンで雨音に「抱きついて」とか言った訳では断じてない。

 そんな感じで昔話に花を咲かせていると例の喫茶店にたどり着いた。

「ご注文お決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びください」

「あっ、もう決まってるんですけど注文いいですか?」

「かしこまりました。それではご注文の方お伺いいたします」

 にこやかな笑みを浮かべて伝票取り出す女性店員。

「このカップル限定ジャンボパフェください」

「お客様。当店ではカップルかどうかを判別するために女性の方が男性の方のほっぺにキスをする事になっているんですけど……よろしいですか?」

「わかりました。おに……友義ほっぺ出して」

 一応兄妹だとバレないようになのか名前に呼び変える雨音。なんというかレアだ。

「早くほっぺ出して」

「ああ、すまんすまん」

 右のほっぺを差し出すと、その瞬間に柔らかい感触が頬に伝わった。

「はい、ありがとうございます。それでは少々お待ちください」

「はわわわわ」

 顔を赤らめて両頬に手を当てて悶える雨音。ブラコン妹でも、さすがに恥ずかしかったようだ。

 共感性羞恥と言うやつなのかなんなのか、だんだん俺もなんだか恥ずかしく感じてきた。

 少しの時間、二人の間に珍しく、妙な空気が流れるのだった。




「お待たせしました。ジャンボパフェになります」

「わぁぁぁぁすごい……!」

 しばらくすると待望のジャンボパフェが俺たちの席に届いた。

 色とりどりの果物やバニラアイスなどがふんだんに使われていてとにかくでかい。カロリーを気にする人ならこれを見ただけで卒倒しそうな程だ。

「おにいちゃん早く食べよ!」

「ああ」

 備え付けのスプーンを手に取り、一口。うん、美味しい。

「美味しいねおにいちゃん!」

「そうだな、美味しいな」

 パクパクと勢いよくいっぱい食べる雨音。俺が一口食べている間に雨音は三口も食べている。最初見た時は「こんなの食べ切れるのか?」とか思っていたがこれなら食べ切れそうだ。

 程なくしてパフェを食べ終えた俺たちは飲み物を注文して雑談をしていた。あまり混んでないし、長居しても大丈夫だろう。

「それで今日はどうしてデートなんだ?」

 今まで気になっていた事を聞いてみた。いつもはデートという言葉は使わないから、なぜ今回はデートという言葉を使っているのか気になって仕方ないのだ。

「えっとねー、それは……やっぱり秘密!」

「おい、それだとものすごく気になるじゃねぇか!」

「じゃあ、考えてみてよ。わざわざわたしがデートって言ってる理由」

「うーん」

 正直言ってわかる気がしない。最初は言葉の綾だと思ったがこれまでの言動を察するに違うのだろう。

 俺は数分考えてある答えを見つけた。

「わかった、あれだろ好きな人がいるから俺でその予行演習してるんだろ」

 この理由なら納得がいく。いつもはしないオシャレな格好も手を繋ぐのも、その好きな人とのデートで失敗しないためにしているんだろう。

「惜しいけど違うよ」

「惜しいのか、うーん」

 その後もさっきの回答を頼りに色々答えてみたが当たる事はなく、雨音が「はい、時間切れー!次の場所行くよおにいちゃん」と言ったため、店を出た。

 少しモヤモヤしたまま、次の場所に向かった。

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