第十話
「なんだかいつもより眠そうだね」
金曜日の朝。自分の席で眠さに耐え忍んでいると前に座っていた快斗に声を掛けられた。
眠い理由はもちろん雨音の裸体を見てしまったせいだ。寝ようとするとあの時の光景がフラッシュバックしてくるのだ。そんなの寝れるはずがない。
「本読んでたら寝るのが遅くなってな」
「なるほど、それは友義らしいね」
とりあえずそれっぽい嘘をついておく。馬鹿正直に「雨音の裸を見たせいで眠れなかった」なんて快斗といえども言えるはずがない。
「そういえばもう少しでゴールデンウィークだね。友義はもう予定立てた?」
「いや、まだだけど、快斗は?」
「質問しておいてなんだけど僕も特には決まってないよ」
「そりゃそうだよな」
「まぁでも一つだけ確定してるのは毎日希と過ごす事かな」
「だろうな。俺も今まで通り雨音と二人でなんやかんやするんだろうなぁ」
そのまま他愛のない会話を続けていると先生が教室に入ってきた。
「よーしお前ら席に着けー。朝のSHR始めるぞー!」
「先生が来たみたいだね」
そう言って快斗は前を向いた。
「やっぱり眠い……」
快斗と話してた時は気にならなかったのに今になってまた眠気が襲ってきた。
「もう……駄目だ……」
そう言い残し俺はまどろみに落ちるのだった。
※
――キーンコーンカーンコーン――
「おっ、チャイムが鳴ったからここまでかな。じゃあ号令お願いしまーす」
「起立、気をつけ、ありがとうございました」
授業が終わった瞬間、わたしは席から立って桜ちゃんの席に向かう。ちなみに今は四時間目が終わったところで昼休みだ。
「桜ちゃん、おにいちゃんの教室行こ!」
「はい、行きましょうか」
ふわりと微笑む桜ちゃん。こういう清楚なところが桜ちゃんのモテる理由なんだろうなぁ。先週も告白されてたみたいだし。それで付き合ってないって事は振ったのかなぁ。やっぱりおにいちゃんの事、狙ってるんだよね……。
ライバルが強大である事を再確認させられる。どれだけ強大でもこの勝負は絶対に負けられないから頑張らないと。
「雨音ちゃん、どうしたんですか?ぼーっとして、早く行きましょうよ」
「ああ、ごめんごめんじゃあ行こっか」
というわけでおにいちゃんの教室である二年二組に行ったら……。
「おにいちゃん寝てる……」
「珍しいこともあるんですね」
「おにいちゃん起きてー!」
「んぅ、くぅ」
身体をゆさゆさと揺らして声を掛けてみるが全然起きそうにない。
「随分とお疲れのようですね」
「うーんどうしよう」
「こういう時は耳に息を吹きかけると飛び起きるらしいですよ」
「そうなんだ!じゃあやってみるね」
右耳の方に顔を持っていき「ふー」と耳の穴に息を吹きかける。すると桜ちゃんの言った通り、おにいちゃんが奇声を上げて飛び起きた。
「あははおにいちゃんおもしろーい!」
「うっせー……ってあれ?今何時だ?」
「十二時四十五分だよおにいちゃん」
「まじかよ……」
絶望的な顔をするおにいちゃん。一時間寝過ごしたくらいでそんなに絶望するものなのかな?
「まぁまぁ元気出しなよおにいちゃん。妹が作った愛妹弁当でも食べてさ、ね?」
「うん、そうする……」
「じゃあいつもの場所行こっか」
しょんぼりしているおにいちゃんとなんだかニマニマと笑っている桜ちゃんを連れて一番奥にある空き教室へ向かった。
※
お弁当を食べているとだんだんと俺の元気が戻ってきた。
「まさか四時間全部寝てしまうなんてなぁ」
「えっ!?全部寝てたの!?」
「全部寝るなんて……相当夜ふかししたんですね」
「ああ、ちょっと本読んでてな、そしたら結構時間経ってて」
「へぇー、珍しいねおにいちゃんが本読んで夜ふかしするなんて」
その指摘に俺は肩をビクリと震わせる。
「そうなんですか?本読みならたまにありそうな現象だと思いますけど……」
「おにいちゃんは夜中になると頭に内容入ってこないから夜中は読まないって前に言ってたよ」
これ言ったの結構昔だったのにまさか覚えてるなんて……。
「じゃあもしかしてこれは嘘で他に理由があるって事ですかね?」
「いや、ないぞ。たまたまだ、たまたま」
「らしいですよ雨音ちゃん」
「ふーんまぁ、詮索はこの辺にしとこっか。多分教えてくれないだろうし」
心の中で「ふぅ」と息をつく。さすがにバレるのはまずいから変に詮索されなくてほんとによかった。
「話は変わりますが先輩のお弁当に入ってる唐揚げ美味しそうですね一つ分けて貰えませんか?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございます」
そう言って口を開ける桜。唐揚げを箸で掴み、正面の席に座っている桜の口に運んでいると、何故か雨音が横取りしてきた。
「雨音、何やってるんだ……」
うん、なんというか開いた口が塞がらないとはこのことを言うんだなって……。
「いや~ごめんごめんなんだか食べたくなっちゃってさ。ほら、桜ちゃん。わたしのやつ食べさせてあげるからさ、これで許してよ。はい、あーん」
「あ、あーん」
困惑気味に口を開く桜。まぁ困惑するのも仕方ないだろう。
「雨音ちゃん、とても美味しいです」
「あ、ありがとう桜ちゃん」
照れ気味にそう返す雨音。
「あ、あぶなかったぁ。おにいちゃんがあーんしていいのはわたしだけなんだからまったく」
雨音がなにか言っていたが小声のせいでまったく聞こえてこなかった。
「? 雨音、なにか言ったか?」
「何でもありません!」
そう言ってぷいっとする雨音に俺は「妹心はわからぬな……」とつぶやくのだった。
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