第九話
俺が自室でラノベを読んでいた時だった。
「おにいちゃーん!ご飯出来たよー!」
「わかったー!……もうこんな時間か」
ラノベに栞を挟み、スマホのホーム画面で時刻を確認してみるとちょうど十九時。読み始めたのが十七時前だったから大体二時間程読んだ事になる。ほんとに読書は時間泥棒だ。
「待たせるのも悪いし早く降りるか」
二階から降りてリビングに入る。するといきなり雨音が抱きついてきた。
「ぎゅー」
数日前までは抱きついてこなかったくせに今ではもうすっかり元通りである。
とりあえず雨音の頭を撫でて離れるのを待つ。無理やり引き剥がそうとすると雨音の機嫌が悪くなるため、そんな愚行は犯さない。
数分間そのまま頭を撫でて続けていると雨音が俺から離れた。
「おにいちゃんパワー充電完了しました!」
ぴしっと敬礼をする雨音。おにいちゃんパワーってなんだよといつも思うがわざわざ聞くような事でもないだろう。
「今日の夕飯はなんだ?」
「今日はミートスパゲティだよおにいちゃん」
「お、ミートスパか。久しぶりだな」
雨音の料理は基本美味しいので期待に胸を躍らせ席につく。
「「いただきます」」
まずは一口……うん、美味しい。食レポとかは苦手なため、上手く表現できないがものすごく美味しい。そのまま無我夢中で食べているとあっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさま。美味しいかったよ雨音」
「えへへ、ありがとうおにいちゃん」
食器を台所の流しに持っていき水を張る。
「んじゃ部屋戻るから」
そう言って扉のドアノブに手を掛ける。
「わたしを置いて部屋に戻るの?」
「え?駄目か?」
「いや駄目に決まってるじゃん。もしかしてこの広いリビングで一人寂しく食べてろって言うの?あーあ寂しいなぁシクシク」
「今日は途中の本があるからな、明日だったらいくらでも付き合うからな?」
「わたしが先に食べ終わってる時はちゃーんと毎回おにいちゃんが食べ終わるの待ってるんだけどなー」
「はぁ、仕方ないな」
これは折れた方が早いと判断した俺はドアノブから手を離し、雨音の向かいに座る。
「それでいいんだよおにいちゃん」
満足そうに雨音がうんうんと首を縦に振った。
「あー、面白かったなぁ」
部屋に戻った俺は途中まで読んでいたラノベを最後まで読み終えていた。
「結構読んでた気がするが今何時だ?」
現在の時刻は二〇時を回ったところだ。
とりあえず風呂に入ろうと思い、一階に降りる。そして脱衣所の扉を開けるとそこには裸の雨音がいた。
「へ?」
雪のように白く美しい肌に俺は見入ってしまった。
「……きゃぁぁぁぁぁぁぁ」と妹がその白い肌を真っ赤にして悲鳴をあげた。そのおかげで俺は我を取り戻し速攻で脱衣場の扉を閉めた。
「すすす、すまない雨音。お前が入ってるなんて知らなかったんだ」
「……後でわたしの部屋に来るように」
「はい、わかりました……」
この瞬間俺は「ああ、終わった」と思うのだった。
数分後俺は雨音の部屋を訪ねた。さっきの反省を活かして「コンコン」とノックをする。さすがにないと思うがもしかしたら雨音が着替えている可能性があるからだ。
程なくして雨音の部屋から怒っているような声色で「どうぞ」という声が聞こえてきた。
「お邪魔しまーす……」
部屋に入ると雨音が正座で座っていた。俺はその真正面に同じく正座をした。
「まずは謝罪の言葉をどうぞ」
「ほんっとうにごめん雨音。悪気があったわけじゃないんだ」
深々と頭を下げて土下座をする俺。地面に額をこすりつけて必死に許しを乞う。プライドなんてものはない。そんなチンケなものよりも雨音の機嫌のほうが大事だ。
「おにいちゃんは自分が何をしたか分かってる?」
「はい、分かっております」
「それならお詫びってものが必要だよね?」
「はい、今からロ〇ソンのスイーツ買ってきます」
「えー、それじゃあわたしの機嫌は直らないかな~」
「それではこの前買ったケーキもお付けしましょう。これならどうですか?」
「今はスイーツの気分じゃないからなぁ」
「じゃあどうすればよろしいでしょうか」
「今週末わたしとデートして」
「へ?」
予想の斜め上を行く回答を貰って思わず顔を上げてしまう。
「そんな事でいいならいくらでも付き合うぞ」
「やったぁー!おにいちゃん大好きー!」
ものすごく嬉しそうな顔をする雨音。「デート」という言葉には少し引っかかるがまぁただ遊びに行くだけだろう。
「よし、おにいちゃん戻ってよし!」
「ああ、じゃあ戻るな。本当にごめんな」
すっかりご機嫌になった雨音にそう言って俺は雨音の部屋をあとにした。
「とりあえずさっきは入り損ねたし風呂入るか」
そう呟いて俺は脱衣所に向かう。
脱衣所で服を脱ぎ、湯舟に入る。
「あ~気持ちい~」
高すぎず低すぎずの温度でものすごく心地よい。
ゆったりと寛いでいるといきなりさっきの光景がフラッシュバックしてきた。
(それにしても雨音の肌めちゃくちゃ綺麗だったなぁ)
少ししか見ていないが本当に綺麗でスベスベしてそうだった。
胸は全く成長していないがそれ以外は女性らしく――
(って何考えてるんだ俺。兄として最低すぎるだろ……)
「とりあえず雨音のためにもさっきの事は忘れよう」
そう決意したがどれだけ頑張っても忘れられない。脳裏に焼き付いていて全く忘れられない。
「まぁ、日が経てば忘れられるだろ」
そう思った俺だったが何日立っても忘れられないのであった。
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