第八話
「なぁ、快斗聞いてくれよ」
「どうしたんだい友義」
四月も中旬に差し掛かってきた頃。俺はある事を相談しようと思い、放課後、快斗の家にお邪魔していた。
「最近雨音の様子がおかしくてさ」
「雨音ちゃんの様子がおかしい?」
「そうなんだ、これは少し前の事なんだけど……」
俺はぽつぽつと少し前にあった事を話し始めた。
ある日の放課後。俺はいつもどおり校門あたりで雨音たちの事を待っていた。
「おにいちゃーんおまたせー」
「お、来たか。それに桜も」
「はい、お待たせしました先輩」
「よし、じゃあ帰るか」
他愛のない会話をしながら三人で帰路につく。どうでもいい事なのだが、入学当初は雨音が真ん中で左右に俺と桜という並びだったのに最近は俺が真ん中になる事が多い。最初は喧嘩でもしたのかな?と思ったが二人の態度を見るに喧嘩をしてるわけでも無さそうなので理由がよくわからない。俺がとやかく言うのは違う気がするから何も言うつもりはない。
「そういえば最近雨音ちゃん、先輩と話す時目、そらしてますよね。なにかあったんですか?」
そんな事を考えていると桜が雨音に疑問を投げかけていた。
「え?そ、そらしてないよ」
「いや、そらしてるぞ。なんならいつもの抱きつきはどうしたんだ?今日はしてこないじゃないか」
「うっ、それは気にしないでほしいなおにいちゃん」
ばつの悪そうな顔でそう言う雨音。
これは俗に言う兄離れなのでは?そう考えると嬉しい気持ちの反面なんだか切ない気持ちにもなる。まぁ、雨音の事だし一日も持たないだろう。
「雨音ちゃんが抱きつかないなら代わりに私が抱きついてあげますね」
にんまりと笑みを浮かべた桜がいきなり腕に抱きついてきた。雨音と同じ感じで抱きついているのだが一つだけ違うところがある。そう、胸だ。雨音がぺったんこなのに対して桜はでかい。その胸が俺の腕に押し当てられているのだ。これはまずいと思い、俺は声をあげる。
「桜ちょっと抱きつきはやめてくれないか?」
「もしかして私に抱きつかれるの嫌でしたか?」
悲しそうな顔でそんな事を言う桜。
「嫌じゃないけど……」
「嫌じゃないならいいですよね?」
「……はい、いいです」
「ちょっとおにいちゃん!?なに言いくるめられてるのさ!!わたしは認めないからね!」
怒りを顕にして何故か俺の腕に抱きつく雨音。桜を俺の腕から引き剥がすとかなら分かるが何故、抱きつくんだ妹よ……。
「どう?おにいちゃん。わたしに抱きつかれる方がいいでしょ?」
自慢げな顔をする雨音。
「別にどっちがいいとかそういうのはないんだが……」
それよりも二人には早く抱きつくのをやめていただきたい。さっきから周りの視線が痛いんだ。
雨音のおかげでこの視線には慣れたかと思ったがそういう訳ではないようだ。
「白黒はっきり付けてよおにいちゃん!」
「そうです。しっかり付けてほしいです」
きちんとどちらが上か決めてほしいらしいが何というか言いたくない。というか桜さんあなたそういうキャラじゃなかったよね?
「俺は言わんぞ絶対に」
「言ってくださいよー」
「ぶぶーケチー」
「言わないったら言わない」
「なるほど、先輩恥ずかしいんですね?」
桜がニヤリと笑う。
「恥ずかしいに決まってるだろ!?」
「それなら仕方ありませんね。雨音ちゃん、恥ずかしいようなのでこの辺りで問い立てるのはやめましょうか」
「うん、わかったよ」
よくわからない一体感にため息をつく俺だった。
ちなみにいつも別れる交差点まで二人には抱きつかれていた。
「えっと……自慢話かい?」
「違うわ!それよりもおかしいところがあっただろ!」
快斗が少し考える素振りを見せて、
「僕には分からなかったよ……」
「わからないのか、じゃあ答えを言うぞ」
快斗が「ゴクリ」と喉を鳴らす。
「雨音が自分から抱きついてこないんだ……」
「結果的に抱きついていたよね?」
「それがな、実は昨日も今日も一昨日も抱きついてこなかったんだ」
「なるほどね。でも友義的には良かったんじゃないの?兄離れしようとしてくれてるみたいだし」
「兄離れしてくれるのは嬉しいよ。でもなんだか嫌なんだ。雨音が俺の元からいなくなる気がして」
「そっかぁ」
また、考える素振りを見せる快斗。
「まぁ、大丈夫だと思うよ」
「そうか?」
「だってあの雨音ちゃんだよ?これも長くは続かないでしょ」
確かにあのブラコン妹なら長くは続かないだろうと思いたい。
「まぁ、とりあえず様子見で、これが一週間くらい続いたらまた相談においでよ」
「うん、分かった。じゃあ今日はありがとうな」
俺は立ち上がり、部屋のドアを開ける。
「じゃあまたね」
「おう、じゃあまた学校で」
快斗に別れの挨拶をし、外に出た。
外はすでに日が傾いていた。
「さて、家で雨音が待っているだろうしさっさと帰りますか」
そう言って左側を向くとほぼ同時に希の家のドアが開いた。
「お邪魔しましたー」
希の家の中からは雨音が出てきた。
「えっ?なんでおにいちゃんがここにいるの!?」
こちらの視線に気がついた雨音がびっくりした様子でそう言う。
「ちょっと快斗と遊んでた」
さすがに雨音の事で相談してたなんて言えないため、適当に嘘をつく。
「とりあえず帰ろうか」
「うんそうだね」
細い廊下を縦にならんで歩きエレベーターに乗る。そしてマンションから出た辺りで雨音が話しかけてきた。
「ねぇおにいちゃん」
「ん?なんだ」
「抱きついてもいいかな?」
遠慮がちに言う雨音。
「別にいいけど、どうしたんだ?いつもは許可なんて取らない癖に」
「最近抱きついてなかったから一応ね」
「なるほどな」
「それじゃあ、ギュー」
ついに抱きついてきた雨音。なんだか俺にとっての日常が戻ってきたような気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます