第七話


「おい、快斗」

「なんだい?」 

「お前、雨音にバラしただろ」

「なんのことかな?」

 あの日から二日後の月曜日の朝。俺は教室で快斗を問い詰めていた。

「だから俺が猫耳好きなこと雨音にバラしただろって」

「どうだろうね」

「その反応はもうバラしたって言ってるようなものなんだよなぁ……」

 全く隠す気のない親友にあきれる俺。

「で?なんでバラしたんだ?」

 雨音にバレたくないからあの本たちを預けているのはわかっているはずだ。なのに快斗はそれを雨音にバラした。普段の快斗ならこんなことはしないはずなんだが今回はそれ相応の理由があったのだろう。ならばちゃんと理由を聞かなければいけない。

「いやー雨音ちゃんが困ってたから教えてあげたんだよ」

「意味わからん……」

「まぁ、友義ももうそろそろ自覚しといたほうがいいんじゃない?」

「どういうことだ?」

 キーンコーンカーンコーン

「お前らー、席に着けー」

「おっと、先生が来ちゃったね」

 底しれぬ笑みを浮かべて快斗は前を向いた。

(自覚っていったい何を自覚すればいいんだ?)

 朝のHRが終わるまで快斗に言われた事について考えてみたが全く答えは出てこなかった。





「おにいちゃん一緒にお弁当食べよ!」

 俺の教室に雨音が来たのは四時間目の授業が終わってから一分後のことだった。教室に来るのが早い雨音に驚きつつ、首を縦に振る。

「おし、じゃあ行くか」

「うん」

 お弁当を持って席を立ち、雨音と共に一番奥にある空き教室に向かった。

 そして窓側の席で雨音とお弁当を食べ始めた時に一人居ないことに気がついた。

「そういえば桜はどうしたんだ?」

「新しく出来た友だちと食べるって言ってたよ」

「へぇ、桜には新しくで出来たんだな」

 "には"の部分を強調して言うと案の定雨音は噛みついてきた。

「おにいちゃんもしかしてわたしに新しい友だちが出来てないと思ってる?」

 ムッとした表情でそんなことを言ってくる雨音。が、あんなことを言ってしまうのも無理はないだろう。なんせ、雨音が高校生になってから新しく友だちが出来たなんて話聞いていない。

「一応聞いておくが高校生になってから友だち出来たか?」

「ま、まだだけど……」

「そうか、早めに友だち作っとけよあとになればなるほど新しく作りにくくなるからな」

 これは経験談だ。中学校に入学したての頃、「ま、今焦って友だち作らなくてもいつか出来るだろ」と思い、友だちを作らなかった。結果はお察しの通りで友だちなんてものは出来ず、三年間ぼっちという悲しい中学生時代だった。そのため俺は自分の中学生時代のようになってほしくないので忠告しているのだ。

「大丈夫だよ昔のおにいちゃんみたいには絶対にならないから!!」

 自信満々にそう言う雨音に俺は「そうか」とだけ返してお弁当に手を付ける。うん、美味しい。

「ねぇおにいちゃん」

「なんだ?」

「せっかくだから食べさせあいっこしない?」

「は?」

 いきなり意味がわからないことを言われて困惑する俺だった。


※※※


「いやいや、なんで?」

 困惑顔でそう言うおにいちゃん。

「兄妹の絆を深めたいなって思って」

 それっぽい理由を語るわたし。絆を深めたいっていうのは建前で本当の目的は少しでも意識してもらうことだ。あと純粋にわたしが食べさせあいっこしたいっていうのもある。

「は?」

 今日二回目の「は?」が聞こえてきた気がするがそんなのはお構いなしにわたしは自分のお弁当箱からたこさんウィンナーを箸で摑み、おにいちゃんの口に運んでいく。

「はい、あーん」

「あ、あーん」

 ゴリ押しだったのに拒ばまずに食べてくれるおにいちゃん。こういうところは少し優しいなとか思ったりする。

「次はおにいちゃんの番だよ」

「あ、ああ。ほら、あーん」

「あーむ」

 おにいちゃんが食べさせくれたのはちっちゃいハンバーグだった。なんだかいつもより美味しい気がする。

 次はわたしの番ということでもう一つ残っているたこさんウィンナーを箸で摑んだところでわたしは気づいてはいけないことに気づいてしまった。

 あれ、これって間接キスじゃん。

 そう気づいた瞬間、わたしの顔が熱くなった。いや、おにいちゃんと恋人になると決心する前はこんなことはなかったんだけど最近はおにいちゃんと恋人らしいことをするだけで顔が熱くなる。

「顔が赤いがどうしたんだ?」

 異変に気づいたおにいちゃんが心配そうな声で話しかけてくる。心配してくれるのはありがたいけど顔近いから!!

「もしかして熱か?測ってやるからじっとしてろよ」

 さらに近づいてくるおにいちゃん。

「だ、大丈夫だからぁ!!」

 恥ずかしさが限界を迎えたわたしは持っていた、たこさんウィンナーをおにいちゃんの口の中に突っ込んだ。

「むぐっ、ごほっ、ごほっ」

 勢いよく突っ込んだせいでむせ返るおにいちゃん。気が動転していたわたしは自分のお茶をおにいちゃんに手渡した。

 それを飲むおにいちゃんを見ながらわたしは「今回の作戦は失敗かぁ」とおにいちゃんに聞こえない程の小さな声で呟くのだった。

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