第六話


「おにいちゃんって猫耳が好きだったんだ……」

 その事実にわたしは少し驚かされる

「そういえばなんで雨音ちゃんは友義のそういう趣味知らないの?本棚見たら大体わかりそうな気がするんだけど」

「だって、おにいちゃんの本棚には藍川先輩が言ったような子が登場する本ないんだもん」

「雨音ちゃんが知らないのも無理はないよ。だって彼、雨音ちゃんにはバレたくないのか知らないけど毎回そういう趣味の本を買うとうちに持ってくるんだから」

「へぇーそうなんだ。だから快斗の趣味じゃなさそうな本も本棚にあったんだね」

「そうそうだから勘違いしないでね」

「うん、わかった」

「それで本題に戻すけど、今回は猫耳を付けていつも通り甘えてみよう。実は彼、甘えられるの結構好きみたいだからそれだけでも効果はあると思うよ」

「わかりました。それじゃあ今日やってみます」

 猫耳ならどこかに売っていると思うし、帰りに買って帰ろう。

「頑張ってね雨音ちゃん、恋愛は攻めが大事だから」

「うん、わたし頑張る!」

「あっ、友義の本、何冊か持って帰るかい?多分参考になると思うんだけど?」

「持って帰りたいです!」

 おにいちゃんの好みを知れるチャンス。これは絶対に逃せない!

「わかった、じゃあ僕の部屋行こうか。見た方がいいだろうし」

「はい」

 わたしと藍川先輩が部屋を出ようとすると希ちゃんが真剣な表情で「ちょっと待って」とストップをかけてきた。

「快斗、なに部屋に雨音ちゃん連れ込もうとしてるのよ」

「?なにか問題でも?」

「いや、ちょっと不安だから……」

 藍川先輩は少し考えてから、

「なるほどね、じゃあ希もついてきてよ。そしたらその不安も取り除けると思うから」

「わかった、私もついてく」

 そうしてわたしたちは藍川先輩の部屋に入った。

「うわぁ、こんなにおにいちゃんの趣味らしき本が……」

 軽く数えた感じ四十から五十冊はありそうだ。その本棚には兄妹モノのラブコメも入っていた。これはどっちの趣味なんだろう。それを聞こうとした瞬間に藍川先輩が「これは友義の本だよ」と答えてくれた……この人は心を読む能力でもあるのかな?

 わたしは数十分悩んで五冊ほど本を取り出した。

「今日はこの五冊持って帰ります」

「うん、わかったよじゃあ雨音ちゃん頑張ってね。友義の攻略」

「はい!」



※※※


「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げてそう言う桜。

「俺も楽しかった、こちらこそありがとう」

 ここは桜の家の前。カラオケで三時間ほど歌ったあといい時間だったため、最初に集合した場所である駅前で解散となったのだが女の子である桜を一人で帰す訳にもいかず、俺が送り届ける事になり今に至る。

「先輩、せっかくなので私の家で夕飯食べませんか?」

「あーそうだな」

 桜の提案はかなり魅力的だ。なんせ、桜の家のお手伝いさんの作る料理はかなり美味い。お手伝いさんというのは桜の両親は二人とも忙しく、家にいないため、雇っているらしい。本当に忙しいからなのか桜の両親を見たことがない。

 そんなお手伝いさんの料理を食べたいが家で雨音が待っていることを考えると流石に帰らないといけない。これ以上遅くなると雨音が寂しがるだろうしな。

「すまんな雨音が待ってるし俺、帰るよ。また今度夕飯食べさせてくれ」

「そうですか、わかりました……それでは気をつけて帰ってくださいね。ではまた明後日学校で会いましょう」

「ああ、じゃあな」

 桜が家に入るのを見てから雨音の待つ家に向かって歩き出す。今日一日、雨音に構ってやれなかったお詫びとしてコンビニスイーツでも買って帰るか。

「帰り道にロ〇ソンあったっけ……」

 確か無かったはずだ。一応スマホでロ〇ソンが無いか調べてみるが、やはり無い。

「少し遠回りになるけど仕方ないか」

 雨音のためだと自分に言い聞かせて俺はロ〇ソンへ向かうのだった。




「なんだかイヤな予感する……」

 家のドアの前に突っ立って早二分。俺はものすごくイヤな予感を感じ、ドアを開けられないでいた。

 しかし、ここで立ってても何も解決しない事はわかっているので、もう中に入ろうと思い、覚悟を決めてドアを開けた。

「ただいま~」

 その声と共にリビングから玄関に小走りで雨音が来た。ぶかぶかの白いパーカーとその裾からギリギリ見えるか見えないかぐらいのホットパンツを履いているいつも通りの格好なのだが二つほどおかしい所があった。そう猫耳としっぽが付いていたのだ。

「……」

 なにも言わずに俺はドアを閉める。

 うん、たぶん家を間違えたのだろう。あれは雨音に似ている別人だ。そうに違いない。でも、確かここ俺の家だった気がするんだよなぁ。一回表札を見て確かめよう。

「やっぱり俺の家じゃねぇか……」

 じゃああの猫耳としっぽを付けていた雨音のそっくりさんは正真正銘俺の妹の雨音のようだ。

 とりあえず家の中に入ろう。そう思った俺はドアを開ける。そこには膨れっ面で仁王立ちしている雨音がいた。

「なんで出ていっちゃうのさ!!」

「ちょっと外の空気を吸いたくてな」

「さっきまで外に居たのに?」

「うっ、」

 ジト目でこちらを見つめてくる雨音。その目は「その言い訳は聞き苦しいのにゃ、おにいちゃん」と言っている。

「ところで雨音が前に食べたいって言ってたロー〇ンのガトーショコラと台湾カステラ買ってきたけど食べるか?」

 そう言って俺は右手に持っているコンビニ袋を掲げて見せた。

「え!?食べたいにゃ!!」

 右手に持っていたコンビニ袋を渡すとそのままリビングへと走り去って行った。ふっ、ちょろいヤツめ。

 俺もその後を追いかけてリビングに入り、「幸せ~」とほっぺを押さえながら美味しそうにソファーの上で台湾カステラを食べている雨音の隣に座る。

「もう少しで夕飯なんだからガトーショコラは後にしておけよ」

「もちろんわかってるにゃ、おにいちゃん」

 そう言って雨音はガトーショコラを冷蔵庫に入れ、俺の隣に座ってきた。

「そういえばどうして猫耳付けてるんだ?」

「そりゃあもちろん今日全く甘えれてないからそのせいで猫耳としっぽが生えてきちゃったのにゃ」

 意味がわからないが多分構ってほしいのだろう。まぁ構ってやれなかった俺にも責任はあるし、ここはこの茶番に乗ってやろう。

「そうか、甘えられてないから生えてきちゃったのか。じゃあそれはどうやったら治るんだ?」

「いっぱい撫でてくれたら治るにゃよ」

「仕方ないな」

 俺は雨音の頭を撫で始める。すると、「んにゃー♡」と猫みたいな鳴き声を出した。本当に猫みたいだ。

 確か猫ってあご撫でるといいみたいな事聞いたことがある気がするな。よし、一回やってみるか。

 そう思い、頭から手を離してあごを撫で始めた。

「ちょっ、おにいちゃんくすぐったい」と最初は少し嫌がってたものの数分間撫で続けると、

「これもこれで気持ちいいにゃ♡」

 簡単に堕ちてしまった。

 こうして撫で続けること数十分。

「もういいよ、おにいちゃん。もうそろそろご飯作らないといけないから」

「ああ、わかった」

 雨音は満足そうに台所へ向かって行った。

「ふぅ」

 と、俺は息を吐く。表面上では「なんとも思ってませんよ?」みたいな顔で雨音と接していたが内心バクバクだった。なんせ、雨音が俺の好きな猫耳を付けて甘えてきたんだ普通に甘えてくるのとは違い、破壊力が半端なかった。

(そういえばなんで雨音は猫耳を付けていたんだ?)

 いや、流石にね、バレてるはずないよね?

 少し不安になりながら、夕飯の準備をしている雨音の方を見る。

「次は何試そうかなぁ」

 上機嫌で独り言を言っていた。これだけじゃわからないがバレてる可能性もありそうだ。

(どっから漏れたんだ?いや、一つかなり思い当たるふしがあるけど……)

 流石に俺の妹にバラすような事しないよな?快斗

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