第五話(再)

第五話

 おにいちゃんが桜ちゃんとしに行ってから二時間経過した頃。わたしはベットの上でうつ伏せになって寝っ転がっていた。もちろん自分のベッドではなく、おにいちゃんのベッドで、だ。

「あの二人付き合っちゃうのかなぁ」

 わたしはそんな声を零した。別に二人が付き合ってもいいと思っている。知らない人よりも桜ちゃんの方が安心できるし……。だけど、

「なんか付き合ってほしくないんだよなぁ」

 相反する考えがわたしの中にあった。二人が付き合うんじゃないかと思うたびに心がモヤモヤする。この気持ちがなんなのかわからないけどいつかわかるときが来る気がする。

「二人が付き合ったらどうなるんだろうなぁ」

 うつ伏せの状態から仰向けに姿勢を変え、暇つぶし程度に考えてみることにした。

 朝一緒に登校して帰りは放課後デートして夜は寝る前に毎日通話して休日は朝から夜までデートして……ってここでわたしは一つ重要なことに気がついた。

「もしかして二人が付き合ったらわたしがおにいちゃんに甘える時間減っちゃう!?」

 一日最低十回はおにいちゃんに甘えないと生きていけないわたしにとっては由々しき事態だ。これは早急に対処しないといけない。

「でも、どうやって対処すればいいんだろう」

 わたしは思考を巡らせる。考えて、考えて、考えた先に一つの答えを見つけた。だけどこの作戦はリスクがものすごく高い。もし、失敗したら兄妹仲に亀裂が入る可能性がある。でもわたしはこの作戦しかないって思った。成功した時のリターンだって大きいだろうし、何より今後おにいちゃんが他の女の子と付き合うってことがなくなるのだからかなり良い作戦なんじゃないだろうか。

「よし、早速この『おにいちゃんと付き合っちゃうぞ大作戦』に協力してくれそうな人に声かけてみよっと」

 わたしはこの作戦に協力してくれそうな人に電話を掛けてみる。三回の発信音が鳴ってから彼女は電話に出てくれた。

「ねぇ、ちょっと手伝って欲しいことがあってさ、今からそっちに行っていいかな」

『別にいいけど、今日、快斗も来る予定なんだけど大丈夫?』

「うん、大丈夫だよ。というかむしろ好都合だよ、じゃあ今から行くね。希ちゃん」


※※※


「ヘックシッ」

「先輩大丈夫ですか?外歩き過ぎて風邪引いちゃいましたかね?」

「いや、風邪じゃないな。イヤな予感はするが」

「イヤな予感?」

「ああ、多分雨音がなんかしでかす気がする」

「そんな心配も歌えば吹き飛びますよ、ほら、先輩も歌いましょ」

「俺、歌うの下手だからやだな。てか、何回この会話すれば諦めるんだ?」

「先輩が歌うまで諦めませんよ」

 俺たちはウインドウショッピングをした後に某大型ショッピングモールから二十分ほど歩いた先にあるカラオケ店に足を運んでいた。

「先輩、ちょっとこっちに身体向けてください」

「ん?ああ」

 俺が桜の方に身体を向けると桜は俺の服を掴んで勢いよく引張ってきた。

「おわっ!?」

 お互い倒れる形になり、傍から見ると俺が押し倒したみたいな状態になった。急いで退こうと思ったが桜が服を掴んでいるため退けそうにない。

「もし私がここで大声をあげたらどうなると思いますか先輩」

 ニヤニヤと笑いながらそう聞いてくる桜。

「先輩が歌ってくれるなら大声出しませんよ」

「……はぁ、わかったよ歌うからとりあえず服を放してくれ」

「はい」

 一曲入れてマイクを手に取る。俺の歌声はまじで壊滅的で雨音に笑われるほどだ。

「笑わないでくれよ」

「わかりました」

 桜はそう言ったが俺が歌い終わった頃には腹を抱えて笑っていた。


※※※


 数十分ほど歩いた先にあるマンションに入り、エレベーターを使って四階に行く。そこからドアを四つほど通り過ぎた先にある405号室そこが希ちゃんの家だ。その一個奥には藍川先輩の家がある。

ピーンポーン

「はーい」

 チャイムを鳴らすとすぐに希ちゃんが出てきた。今日は彼氏である藍川先輩が家に来るからなのか少し気合いが入った格好をしていた。

「ごめんねお家デートの邪魔しちゃって」

「うんん、別にいいよ気にしないで。入って、入って」

「ありがとう希ちゃん。それじゃあお邪魔しまーす」

 そう言って希ちゃんの家に入るとすぐ左にある希ちゃんの部屋に案内された。

 部屋には既に藍川先輩がおり、テーブルの前に座っていた。

「やぁ、雨音ちゃん」

「どうも藍川先輩」

 挨拶を交して藍川先輩の反対側に座りわたしの分の飲み物を持ってくるらしい希ちゃんを待つ。

「……」

「……」

 微妙な空気が流れている。というか藍川先輩とふたりきりになるなんてこれが初めてだから何を話していいかわからない。

(早く戻ってきて希ちゃん)

「お待たせ~」

 わたしがそう願った瞬間に希ちゃんは戻ってきた。エスパーかな。

 希ちゃんはわたしの前に麦茶を置き、そのまま藍川先輩の隣に座った。

「それで手伝って欲しいことって何?何でも手伝うよ」

 なんの前触れもなく希ちゃんはいきなり切り出してきた。

「えっとね」

 わたしは桜ちゃんとおにいちゃんが付き合うかもしれないこと、それを阻止するためにわたしがおにいちゃんと付き合おうとしてることを話した。

 前者はともかく、後者の方は少し驚かれるかなって思ったけど二人は「やっとその気になったんだね」と言っていた。

「それで私たちは何を手伝えばいいのかな友義の好みとかは雨音ちゃんの方が知ってるんじゃない?」

 全て話し終えると希ちゃんは小首をかしげてそう言った。

「好みとかじゃなくてどうやって希ちゃんが藍川先輩にアタックしたか教えて欲しいなって」

「あ~なるほどね」 

 希ちゃんが少し考えて、

「まずは胃袋を掴んだかなぁ毎日お弁当作ってあげたりして」

「ほぼ毎日朝、昼、晩ご飯作ってるから多分胃袋は掴んでると思う……」

「じゃあボディータッチは?これしたら意識せざるおえないんじゃないかな」

「わたし、毎日ペタペタ触ってるからあんまり効果なさそう……」

「そういえばこの子ブラコンだった……」

「ブラコンじゃないし!」

「盲点だった……」と、天を仰ぐ希ちゃんにすかさずツッコミを入れるわたし。

「そういえば雨音ちゃんはコスプレしたことあるかい?」

「えっ?したことないですよ」

 この先輩はいきなり何を言っているの?

「彼はね、こういうのが好きなんだよ」

 藍川先輩がそう言ってとある一枚の画像を見せてきた。

「試してみたいけど、家にそんなものないですよ?」

「そっかぁ、じゃあどうしようかな」

 藍川先輩が少しだけ考えてから、

「よし、じゃあこれとかどうかな?これならすぐに買えるからいいと思うんだけど」

 藍川先輩が次に見せてきた画像は猫耳を生やした少女のイラストだった。






<あとがき>

皆さんお久しぶりです。まずは一つ謝罪をさせてください。約二ヶ月間も投稿サボってしまい大変申し訳ございませんでした。これからはサボらずにまた投稿していくのでこれからも読んでいただけると幸いです。六話は来週の水曜日に投稿します。

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