第四話

第四話

 五日後の土曜日。俺は待ち合わせ場所に指定された駅前にいた。

「それにしても早く来てしまったな……」

 現在の時刻は十時四十五分。集合時間より十五分早い。

「くわぁ……」

 俺は欠伸を漏らした。昨日は雨音と夜遅くまでゲームをしていたため、すこし眠い。いつもは零時くらいには終わるのに昨日は何故か二時まで付き合わされてしまった。

 とりあえずスマホでもいじって待ってようと思い、ポケットからスマホを取り出したところで彼女は来た。

 白のワンピースに薄い水色のカーディガンを羽織っていて、良家のお嬢様みたいだ。

「ずいぶんと早いですね」

「桜も結構早いぞ」

 スマホを見てみると集合時間の十三分前。俺の方が早く着いたがこんなのは誤差だろう。

「それじゃあ行きましょうか」

「どこに行く予定なんだ?」

「着いてからのお楽しみです♪」

 猛烈にイヤな予感がしたがここまで来たからには帰るわけにもいかず、俺は先を歩いている桜の後ろに付いていく。

 休日の駅前ということもあって人通りが多い。これでははぐれる可能性もあるため、俺は歩くペースを早め桜の隣まで行った。こうすればはぐれる可能性は少し減るだろう。

「先輩、手を繋ぎませんか?はぐれたら困るので」

 そう言って桜は右手を差し出してきた。

「あぁ、いいぞ」

 と、なんとも思ってない風に言ってはいるが内心、かなり心臓がバクバクしている。抱きつかれるのには慣れているが手を繋ぐことは初めてだ。

「いつになったら先輩は手を出すんですか?このままだと変なので早く繋ぎたいのですが」

「すまんすまん」

 俺は桜の右手を握った。すると桜がしゅるしゅると指を絡ませてきた。いわゆる恋人繋ぎって言うやつだ。俺がそれに戸惑っていると桜が耳元でこう囁いてきた。

「可愛い女の子と恋人繋ぎできて良かったですね。せーんぱい♡」

「うぉ!?」

「ふふ、驚きすぎですよ先輩」

 上品に笑う桜はなんだか可愛いなと思ってしまった。




 恋人繋ぎをしたまま数十分歩くと某大型ショッピングモールに着いた。

「まずは映画館に行きますよ」

「ちなみに見る映画は?」

「まだ秘密です」

「わかった」

 映画館の中は休日ということもあってか学生が多く、そこそこ混んでいる。

「なぁ、もうそろそろなんの映画見るのか教えてくれないか?」

 券売機の順番が回ってきたところで聞いてみた。すると桜は「これです」とチケットを見せてきた。

「ま、まじか……」

 俺は動揺を隠せずにいた。なんたって桜が見せてきたチケットは超怖いと噂のホラー映画だったのだから。

「私、先輩とホラー映画見るの夢だったんですよ」

 と、桜は無邪気に笑った。





 昔の俺は見栄っ張りな人間だった。苦手だったピーマンは美味そうに食べてたし、怪我をしても手当てなんてしなかった。その中で一番見栄を張っていたのはホラー系のやつだ。雨音や桜にはよく「俺は怖いのへっちゃらなんだぜ」ってよく言っていたが本当は苦手だ。全然平気じゃない。

 さて、今は九番スクリーンに入って、映画が始まるのを待っているところだ。まじで帰りたい。

「楽しみですね先輩」

 わくわくした様子でそう言う桜に俺は「そうだな」と頬を少し引きつらせながら答えた。

 おそらく彼女は俺が怖いのが苦手な事を知らないのだろう。

 そんなことを考えていると広告が終わり、映画が始まった。内容としては主人公が引っ越した先が事故物件でその家で起こる怪奇現象を解決するために奮闘するっていうよくある(?)やつだ。結局、主人公はその怪奇現象を解決することができず、鬱になって自殺してしまうという映画だった。

 そんな映画の感想を俺たちはその某大型ショッピングモール内にある中華屋で言い合っていた。まぁ、主に感想を言っているのは桜で俺は怖すぎて半分くらいしか見れてなかったので、それを聞いているだけでほぼ感想を言っていない。

「そういえば先輩って怖いの苦手だったんですね」

「実は苦手なんだよな……」

「へぇーそうなんですね」

 桜は「先輩の弱点見つけちゃいました」と嬉しそうに笑っている。

「と、とりあえず注文するか、桜は何注文する?」

 話の流れを変えるためにメニュー表を開いてそう言った。

「私はもう決まっているので先輩がよければボタン押しますよ」

「ちなみに何注文するんだ?」

「天津飯ですよ」

「天津飯か……」

 いいな天津飯。よし、俺も天津飯にしよう。

「決まったからボタン押してくれ」

「わかりました」

 桜がボタンを押すとすぐに店員はやってきた。

「ご注文お決まりでしょうか?」

「天津飯一つ」

「私も同じものを」

「承知いたしましたー」

「同じもの頼むんですね」

「なんだか食べたくなってな」

「ふふ、先輩らしいですね」

 と、桜はまた上品に笑った。




「そういえば雨音ちゃん最近家ではどうなんですか?」

 二人とも天津飯を食べ終わった時に桜がそんなことを聞いてきた。

「相変わらず家ではべったりだよ」

「やっぱり家でもべったりなんですね、先輩は早く兄離れしてほしいとは思わないんですか?」

「うーんそうだなぁ」

 兄離れか、雨音が兄離れするなんて事ないだろうと思っているため全く考えていなかった。

「まぁ、俺が高校卒業するまでにしてくれたらいいかなとは思ってる」

「そうなんですね……じゃあ会計済ませて次の場所行きましょうか」

「ん、了解」

 もちろん割り勘なんてせずに俺がすべて払った。

 

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