第三話


「はい、それじゃあ帰りのSHRを終わります」

「起立、気をつけ、さようなら」

「「さようなら」」

 帰りのSHRが終わり、昇降口へ。ちなみに快斗と希は教室でイチャイチャしてたから置いてきた。

 下駄箱で靴を履き替え、外に出る。待ち合わせ場所は校門と決めているからだ。

 校門まで来たが雨音の姿はなかった。

「おにーちゃーん!!」

 少し待っていると雨音ともう一人、女の子がこちらに向かってきた。

 黒髪セミロングで清楚な雰囲気の少女。瀬尾桜せおさくら、雨音の友達だ。いわゆる敬語系女子でその清楚な雰囲気によくマッチしている。身長は一六〇センチぐらいで知り合いの女子の中だと一番背が高い。あと胸がデカイ。ちなみに一番背が低いのは雨音で一四五センチだ。

「どうも先輩」

 桜はペコリと頭を下げた。

「このあと、噂のケーキ屋行くんですよね?私も今日行こうと思ってたのでご一緒してもいいですか?」

「うん、いいよ」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ、行こうか」

「ねぇ、おにいちゃん、なんで無視するの」

 今朝のようにほっぺを膨らまし怒ってくる雨音。

「すまんすまん、少しいじわるしたくなってな」

 頭を撫でようと思ったがしない事にした。ここは家じゃないし、誰が見てるかわからないからな。

「むぅ、いつもみたいに撫でてくれないんだ」

 雨音が不満そうに口を尖らせた。

「はいはい、撫でればいいんだろ」

 これ以上機嫌を損ねられても困るのでとりあえず頭を撫でる。すると雨音は頬を緩ませ、だらしなく笑った。

「そうそう、それでいいんだよおにいちゃん……へへへ」

「雨音ちゃんはどこからどう見てもブラコンですけど先輩もシスコン極めてますよね」

 桜がジト目で訝しんできた。

「雨音はともかく、俺はシスコンじゃないぞ」

「勘違いしないで桜ちゃん、わたしはブラコンじゃないから」

「はぁ、そうですか。今はお二人の言葉を信じておきましょう、これ以上長話してケーキが売り切れたら嫌ですし」

「そうだな、行くか」

「うん」

「はい」

 二人の返事が重なったところで歩きだす。

 ケーキ屋は家の反対方向にあるため、帰るのが少し大変だなと考えていると「おにいちゃん♪」という掛け声とともに雨音が右腕に抱きついてきた。ああ、いつものやつか。

「もうこれはブラコンとシスコンじゃないですか」




「先輩は好きな異性の人とかいないんですか?」

 無事にケーキを買い終え、帰り道を歩いていると桜が突然そんなことを聞いてきた。

「なにそれ、わたしも気になるー!」

 雨音もこの話に乗っかってきたが面白い回答はできなさそうだ。

「いないな」

そう言ったあとになぜか雨音の顔が浮かんできたが、おそらく気のせいだろう。

「ちぇー、つまんないの。いじり倒してやろうと思ったのに」

 つまらなそうに声を上げる雨音。

 桜は「……そうなんですね、それなら……」と、難しい顔でなにか考え事をしているようだが、声が小さく、何を言っているのかわからない。

「あ、もうこんなところまで来てたんですね、それじゃあ私はこの辺でそれではさようなら」

「ばいばーい」

「じゃあな」

 桜が交差点を渡るのを見てから歩きだす。彼女が考えていた事は何なのだろうか?気になるがどれだけ考えても答えは出なそうだ。

「ねぇねぇ、おにいちゃん」

「なんだ?」

「ついでに本屋寄っていかない?」

 本屋の前を通り過ぎようとしたところで雨音がそう言った。

「いいけどお金は持ってきたのか?」

「持ってきてなーい」

 雨音は満面の笑みでそう答えた。

 その目は「もちろん買ってくれるよね?おにいちゃん」と言っている。

「はぁ、仕方ないな」

 ため息まじりにそう言って財布の中身を確認する。三冊は余裕で買えるくらい入っている。

「三冊までだぞ」

「わーい、ありがとうおにいちゃん」

 喜びながら本屋の中に入っていった雨音を追いかけ、俺も中に入る。そのままラノベコーナーまで歩いていき、全く迷う素振りを見せずに三冊の本を持ってきた。

「選び終わったよ」

「じゃあ行くか」

 レジでお会計を済ませ、外に出た。

「おにいちゃん、本買ってくれてありがとうね」

 そう言って嬉しそうに買った本を抱きかかえてる雨音を見るとまた買ってあげたくなるからやめてほしい。




「ケーキ食べよおにいちゃん」

 手洗いうがいを済ませた雨音がそう言ってフォークとケーキが乗っかった皿を持ってきた。俺の分は買ってきてないため、食べるのは雨音だけだ。

「よいしょっと」

 今朝と同じように雨音は膝の上に座ってきた。

 いつもみたいに頭を撫でようと思ったが今回はやめておこう。ケーキをちゃんと味わってほしいからな。

「いただきま~す」

 目をキラキラと輝かせながらパクリとケーキを一口食べた。

「ん~、おいしい~、幸せ~」

「そりゃ、良かった」

 妹の幸せは兄の幸せ。雨音が幸せそうだとこっちまで幸せになってくる。

「おにいちゃんも一口食べる?」

 雨音が後ろに振り向き、フォークを差し出してきた。いわゆる「あーん」というやつだ。

「それじゃあいただこうかな」

 そう言って俺はそのフォークに乗っているケーキを食べた。

「うん、おいしいな」

 本当においしかった。自分の分を買わなかったのを後悔するぐらいに。

 そんな後悔をしていると俺のスマホから「ピコン」という通知音が鳴った。スマホを確認してみると桜からLINEがきていた。

『今週の土曜日空いてますか?』

『もし、空いてたら二人で遊びに行きましょう』

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