天然は無敵

生徒会の活動内容が報告されたあと、上機嫌で階段を1段飛ばしで上ってカバンを取るため教室へ戻る。



「ふぅー、つかれたー。」


ため息をはいてしまうが、満足感の方だ。

なんだかんだで先輩たちとは仲良くなれそうで嬉しい。

特に琴先輩とか……ふふっ。

振ってしまった女子……如月と一緒にいるのは何だか少し気まずいけど。

そう思いながら階段をおりる。

ふと、下駄箱の前に如月がたっているのが見えて思わず首を傾げる。

誰か待っているのだろうか。


「あ、紺野くんっ……」

声をかけられたのが自分だということに少し驚く。

「どうした?」

つっけんどんにならないようできるだけ笑みを浮かべて問うと、


「あの……」

なにやら頬を赤くして俯く如月。風邪でも引いたのかと思い、額に手を当てようとするとびっくりして飛びのかれる。



「ひゃ……っ!?」

「あ、ごめん。赤くなってたから熱でもあるのかと思って。」


素直に謝るとさらに顔を赤くされる。

「じょ、女子の顔に簡単に手を触れようとしないで下さいっ!」

涙目になりながら訴える如月。

よっぽど嫌だったのかと思って再び謝ろうとすると


「あ、あの……」

「ん?」


どうやら様子が変だったので首を傾げる。

やっぱり熱でもあるのだろうか。




「その、一緒に帰っていただけないでしょうか……」

「え?」

予想外のことに思考がフリーズする。

俺、一応君のこと振った人なんだけど……

戸惑いを込めて見つめてみると、泣きそうな口調で真っ赤になって震えながら


「そ、その……迷惑なのは分かってるんです。けど、その……わたし、暗いのがどうしてもトラウマで……」


そんなに涙目で震えるくらいなら余程嫌なことがあったのだろう。

そんな女子をほうっておいて帰るなんてありえない。

そう思い快諾すると見るまに表情が明るくなって、よかったと顔をほころばせる。



「あ、ありがとうございます……!」

「ところで、どっち方面?」

「?」

その問いを聞いた瞬間、如月の喜色に染まった顔がたちどころに真っ青になる。

ここの学園の生徒は主に図書館側から来る人と市民ホール側から来る人にわかれている。

つまり、家の方向が真逆な可能性があるのだ。


「あ、あの、私は図書館の方なんですけど……紺野くんは」

「うん、よかった。俺もそっちだよ。」



頷いたあと、付かず離れずの微妙な距離で歩いた俺達。

きゅっと袖を握ってきたので振り返ると、真っ赤な顔をした如月がいた。


「大丈夫?やっぱり……」


熱があるか余程怖いのかと心配して尋ねると、ふるふると首を振られる。




「あの……わたし、まだ紺野くんのこと諦めてませんから。」



なんの脈略もない言葉。

しかし、その決意の籠った眼差しに射抜かれしばらく言葉を発することが出来なくなる。

「ーっ」

「あ、あわ、その、すみませんっ!1度振られたのに差し出がましいですよね。」


「い、いやべつに。」

「わたしもうこの辺なので帰りますっ!!」

そういって駆け出す如月。


「あっ!!」

「あぶないっ……」

いきなり飛び出してきた車から如月さんを庇うようにして横に避ける。

この光景……、見たことある。


なんだかは思い出せないけど、まえも車で危険な目にあったような。

全身に鳥肌がたちそうになるのをこらえながらも如月にこう告げる。


「暗いの、苦手なんだろ?こういうこともあるから最後までおくらせて。それとも家知られるのいやかな……?」

「いえ、あの、庇っていただきありがとうございますっ!へへっ、なんだか変ですね。同級生なのに敬語って。」

「そうか、どっちでもいいぞ?俺は敬語崩してくれても。」

「じゃあ、有難く。紺野くん、よろしくね。」

「うん、よろしく。」


「ふふっ、なんだかほんとに紺野くんっておもしろいね。私ここ家だから。ほんとに送ってくれてありがとです。ところで紺野くんの家って?もしかして通り過ぎちゃったかな。」

「いや、もうすぐだから大丈夫だ。」

「そっか、ありがとね」

「うん、またあしたな。」

笑って手を振る如月に手を振り返して俺は真っ直ぐ歩き出す。







ふぅ、じゃあ戻りますか。

たまにはいいよな、ちょっとくらい寄り道したって。

俺は市民ホールの方へ歩いていった。

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