疑問

あの女の子はなんで俺なんかに告白したんだ?

しかも、“ずっと前から好きでした”って。

まるでずっと前から俺の事を知ってたかのような言い方。

知らないうちに会ってたのか?


家に帰っての仏壇を拝みながら考える。

生まれて初めて告白された報告じゃないけど、なんとなく大事な話をする時はここでって決めてる。


前述の描写からわかるように、俺には生まれた頃から両親がいなかった。

だから両親と過ごした記憶もない。


小学三年生から母方の祖母に引き取られたが、正確に言うと小学二年生までの運動会とか参観日とかそういう行事のことが全く記憶に残っていない。



普通の授業とか仲が良かった子とかは覚えてるんだけどな。


祖母には俺が生まれてから祖母に引き取られるまでに誰も育てている人がいないのは何故か聞いたが、悲しそうに微笑むだけで結局秘密は墓場まで持って行かれてしまった。




その後は親戚のおばさんに引き取られたが、あまり接点がなく申し訳ないという理由から、高校進学を機会に地元でひとり暮らしをしている。

最も、地元といっても全く住んでいた記憶がないため、恐らく3歳より前に住んでいたくらいだろう。

3歳までの記憶はほとんど残らないって聞くし。

どうせなら全く知らない地よりマシだ、と思いここにしたが覚えてないならどこを選んでも同じだったかと少し後悔している。

どうせなら都会にでも行けばよかったかなぁと。

もちろん、ひとり暮らしは大変だけどそれなりの仕送りは貰っているから問題ない。


と、ここまで考えてもやはり俺の頭の中の疑問符は残ったままだ。

俺は今日晴れて新入生として私立の名門と言われている小鳥遊学園へ入学してきたばかり。

隣になった子から告白されてー。

いや、なんでだ!



何度考えても理由がわからない。

ラブコメの主人公にでもなったのだろうか。

それとも定番の夢オチ?

初日でテンション上がって告白される夢見るとか痛すぎるー、、


頭を抱えてしまい、うっかり手を合わせるのをやめてしまう。


「ねぇ、なんでだろ。ばあちゃん、とーちゃん、かーちゃん。」


藁にもすがる思いで仏壇に話しかけてみるも、答えが返ってくる訳もなく項垂れる。


それに告白してくれた子は、俺のことを“秋”とよんだ。

やけに親しげな呼び方だったのが気になるけれど、最近の男女はこういう感じなのだろうか。

なかなか女子と交友関係を持たなかった弊害がここに来て現れてしまった……


ま、いっか。

うん、あきらめよ。



とりあえず考えることを放棄する。

断ったのは断ったし。

何かあれば向こうから声がかかるだろう。

けど、なんだろう。

前にも誰かから秋、って呼ばれたような気がする。

それに、なんだかとても懐かしかった。




そう思いながら俺は明日へ備えて眠りについた。

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