第88話 複雑な思い

 え、何? その反応。もしかしてこの世界にそういう風習はないのか?


 ドワーフがはやし立てている。女性陣はリリウムを応援する。男性陣はアーサーを「やれ、男なら進め」とか激飛ばしているし。


 リリウムとアーサーがどうしたら良いのか分からない視線を送ってきた。


 何だ。接吻以上のことをしておいて接吻は恥ずかしいのか? 会衆の前だからか? 仕方がない。加勢するしかない。


「では新郎は新婦の額に接吻しなさい。これは古代より伝わる挨拶です。神がご降誕された時代には親愛の情を示す証でした。新郎よ」


 アーサーは意を決してリリウムの額に接吻する。


「おおー!」


 一同歓声を挙げて酒を飲み始めた。


「ここに婚姻は果たせり。会衆は踊りをもって歓迎し、善き葡萄酒を口にせよ。今は喜びの時である。良き食事を楽しみなさい」


 うん、これだけは古代イスラエルっぽくやらせて貰う。


 ドワーフ達は酒を飲み始めた。


 アラゴン王はうやうやしく礼をしながら話しかけてきた。


「お見事でした。アダムの末裔様の風習が聴けて大変喜ばしいことでございます」


「あの風習ねえ。額に接吻するところでしょう?」


「はい、それが何か?」


「実は神を裏切った弟子も神に同じことをしているので微妙なんです。でも、古代時代には本当に親愛の証だったのは確かだし」


「それは何とも言えません。言えることはアダムの末裔様がお出しになったものならあの若者とて納得するでしょう」


「それが問題なのですよ」

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