第72話 希望

 さて、そうすると隠れ里も相当な生活水準ではなかろうか。


「この国の機構は素晴らしいですね」


「褒めても何も出んぞ」


「いえいえ、お世辞抜きですよ。ある意味、人類社会より進んでいるかも知れません。隠れ里も同様なのでしょう」


「何じゃろうな。昔来たアダムの末裔も似たようなことを言っておったわい。お主らの世界は差別があるかえ?」


「ええ、世界中の至るところで。その点、ここは平和ですよ。ひと昔前の祖国がそんな感じだったのでしょうね」


「見せかけだけの平和じゃがな。実際は二つの大国に挟まれて苦労しとるよ」


「まあ、そうかも知れませんね」


 遠くない未来にここも戦禍に巻き込まれるかも知れないと思うと胸の内が痛々しかった。


 チョコレート牛乳を味わいながら思う。


 それでも世界を良くしようとする者達がいる限り希望は途絶えない。この賢老もアーサーと同じ感じがする。


 強い。


 肉体的な強さではない。屈しない意志が見え隠れするのだ。死の王がどれ程の者か分からないが、こういった者達がいる限りはそう容易く負けはしまい。


 希望が見えてきた。明日は隠れ里に行って岩の賢者に色々尋ねてみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る