第57話 矛盾

「アダムの末裔はのう、特殊なんじゃ。特にこの世界においては」


「特殊?」


 この世界では何の役に立った憶えもないんだけど。人は魔法を使えないし、大体平和ボケしている人間だしね、僕は。


「神の写し身であるということから皆から畏敬の念を抱かれておる。一見ひ弱な存在でも秘めた力がある。お主の場合はクリストティヌスの知識じゃな」


 クリストティノスじゃなくてクリストティヌスなのか。何故その様な呼称になったのだろう?


「まあ、お主はクリストティノスじゃから真性の知識じゃからなあ」


「二つの呼称の差異があるのですか?」


「コボルトの知識は紛い物と言ったら変じゃが、不完全なんじゃよ。それに対してアダムの末裔の知識は完成度が高い。だから重宝される。そして、ソドムも恐れておる。コボルトに知識をもたらす存在をな」


「それだけではなさそうな……」


「知識じゃな。アダムの末裔は知識が多い。それはこの世界にとって刺激にもなりうる」


 それはおかしい。古代都市で聴いたことと矛盾する。この世界は試験的世界の筈だ。人間がいるのは却って良くない筈だ。


 ウリエルをジッと見るとどこ吹く風かのんびり蜂蜜を食べている。


 このロリ天使、未だ何か隠しているな。


 賢老の言った言葉が少しずつ実感を伴ってきた。ウリエルは一筋縄ではいかない。


 隠しごとは良くないと思うのだが。心の中のぼやきを知らない振りをして賢老に尋ねる。

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