第54話 とんでもない風習

 賢老が活発に歩いて来た。


「おうおう、よくぞ来たわい。まあ、部屋に入ってくれ。生乳をご馳走しよう」


 ウリエルが眼を輝かせる。


 差し出された生乳を飲み干すと口の中がまろやかな感触になった。


「うまい……」


「じゃろう。なにせ、リリウムから絞った生乳じゃからな」


「ブーッ! ゲホゲホッ! あんた何考えているんだ! 巫女から搾乳するんじゃない!」


「あ、大丈夫ですよ。ファルマコさん。お金は残して生乳で代金支払いましたから」


 この巫女には羞恥心がないのかな。


「リリウムさん、それはどうかと思うよ」


「まあまあ、種明かしをするとじゃな、コボルトは生涯にゴブリンを含めて多くの子供を産める様になっておるんじゃよ。じゃから生乳は大量に出せるし、栄養価も高い。言ったじゃろ、価値について。コボルトの生乳は高級品じゃよ」


「倫理的に問題はないのですか?」


「と言ってものう、文化や風習の類じゃからのう。牛乳の方が良かったか?」


 何か言ったら言ったでリリウムが傷つく予感がしたので黙ってしまう。


「いえ、大変美味しかったです」


 代わりに世辞を言う。でも、美味しかったのは本当なんだけどね。


「それは何よりです」


 リリウムは嬉しそうだ。うーん。人間世界とは倫理観がすれているのだなあ。確かに美味しかったけど、人様の乳絞って飲むってどうよ。性的に倒錯してないかい?


 アーサーも平然と飲んでいる。まあ、他種族の文化をどうこう言う権利は僕にはないか。


 ウリエルも平然としている。


「くぅー、はちみつが欲しいねー」


 どこぞの親父か、このロリ天使は。酒と生乳が入れ替わっているだけだ。

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