第53話 大学都市の歴史的瞬間

 大学の門番は「ファルマコ様ですか? 割賦を拝見させて頂いて宜しいでしょうか?」と言い、板を見せるとすんなりと通してくれた。


 しかも案内までしてくれた。馬車を降り、建物内に入る。


「こちらへどうぞ」


 案内人が通したのは傍聴席か? 下を見ると議会がある。


 中央に賢老が立っていた。


「諸君、今こそ民主主義を本当の意味でよみがえらせようではないか! わしは長い間この大学都市の首長を務めてきた。だが、わしも齢だ。残された者達に最期に送れるのは何かと考え続けた。立法、行政、司法がわしに集中し過ぎたことに気付いた。そうだ。これらの機関を独立させるのだ! 立法府、行政府、司法府を創設し、市民が統治者を選ぶのだ! その為に義務教育を充実させ、人権を創ってきた。今日、この時を以って新たな国造りを行う。ゴブリンのみが統治者にあらず! コボルトにも参政権を与えようではないか! 古き超大国ソドムが衰え始めた噂はもう皆が聞き及んでおよう! 死の王なる者が現れたのだ。この危機に対処する為、この国の機構を創り変える! 議員諸君! これからは市民と諸君らで大学都市を栄えさせて行って欲しい! そして、この破滅の予兆を乗り越えるのだ!」


 一同拍手喝采だった。


 あれ、もしかして歴史的瞬間に立ち会っているの?


「これでグノーシスとも話ができるねー」


 ウリエルはあくびをしながらのんびり言った。


「舞台って……」


「そう、これだよー」


 とんでもないお爺さんだなあ。まさか、三権分立を成し遂げてしまうだなんて。


 共和制自体は僕達の世界でも古代ギリシャからあったのは知っていたが、近代民主主義を創り上げてしまうとは。学長の名は伊達じゃないってことだね。


 案内人が学長の部屋に案内してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る